RAY

八月のクリスマスのRAYのネタバレレビュー・内容・結末

八月のクリスマス(1998年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

“愛の期限”


フォローさせて頂いている方のレビューを読ませて頂いて鑑賞しました。


監督は『四月の雪』のホ・ジノ。
主演は『シュリ』のハン・ソッキュです。
作品は青龍映画賞にて最優秀作品賞などを受賞しています。
ホ・ジノ監督の描く淡々とした日常とハン・ソッキュの柔らかな演技が絶妙に合わさることで、作品がより良いものになっています。


とても心に残る作品でした。
ストーリーは、余命いくばくかの主人公・ジョンウォンと、彼の営む写真館へお客として訪れる女性・タリムの淡い恋を描いています。


僕はこの作品を観ていると、本当に心をぎゅっと締め付けられている様な感覚になりました。
大切な人を思いながら観たからです。
と言うか、思わずにはいられませんでした。
人によって恋に対する考え方は違うのでしょうが、僕はその人といつまでも一緒にいられたらと思います。
それどころか、好きになればなる程、会いたいとか抱き締めたいとか一緒にいる以上のことを求めてしまいます。

だけど、もしも自分の命がもうすぐ尽きてしまうことを自分自身が知っていたとしたら、愛する人に対してどの様に振る舞うでしょう。
自分に対して何を思うでしょう。
そのことは、この映画の示した愛のかたちのひとつです。
愛する人が目の前にいるから笑えるし、優しくなれる。
ハン・ソッキュはすべてを包み込む様に演じています。


話を少し戻して、これを観ている時の僕の話をします。
僕はただひたすらたったふたつのことしか考えられませんでした。

「消えたくない」

「離れたくない」

このふたつを想像するだけでも、辛くなってしまう様なそんな思いで観ていたのです。
僕はこんな風に思うことは多分、間違っていないと思うし、当たり前のことなのだと思います。
だけど、この映画はそんな僕の思いとは少し違うのです。
だからこそ、余計に響いたのかもしれません。

映画には重要なキーワードがあります。
「思い出にならない」と言う言葉です。
愛を始めずに胸に秘めておけば、いなくなっても思い出になることはない。
ほとんど、僕とは真逆に近い思い。
それが優しさなのかどうか僕には分からないけれど、間違いなく、ひとつの愛のかたちなんだと思います。

ただ、それでもやっぱり僕は、その身に終わりがあると分かっていても、愛は伝えたいと思います。
死を別れとするならば、死は愛の期限とも言えるのかもしれません。
だけど、そうじゃないと、想いだけはいつまでも残るのだと信じています。
私事ですが、今朝、祖父が亡くなりました。
『おいじいちゃん、死んじゃったって。』のレビューで祖父との関係について書いたことがあるのですが、僕にとっては父の様な祖父です。
たしかに、祖父はもう二度と喋らないでしょう。
だけど、祖父との思い出はいつまでも心の中にあります。ずっと温かいんです。
手を繋いで出掛けたことも、喧嘩したことも、怒られたことも。
思い出があるから、彼がいなくなった今も立っていられます。

だからこそ、ジョンウォンの秘めた思いの辛さが今は分かるし、優しさも分かります。
まさか、この映画を観た後に祖父の死が訪れるなんて思いもしなかったのですが、祖父が思い出にすることも大切だと教えてくれたのかなと思って書いています。
書きながら、祖父との思い出が蘇っては涙が止まりません。
もちろん、思い出になるものが家族なのか恋人なのかではまた違うところがあるのかもしれませんが、僕はどちらであったとしても思い出にすることを選ぶでしょう。


話が随分逸れてしまいましたし、余計なことも書いてしまいました。
非常に難しいテーマを扱うこの作品。
捉え方も人によって随分異なるのでしょうが、愛の色んなかたちを教えてくれる映画です。
大切な人と観て、そして、話したりしてみるのも良いかもしれませんね。


観て良かった。




追記

祖父のことを書いてしまったことによって、気を遣って下さる方もいらっしゃるかもしれませんが、僕は祖父に対して本当にお疲れ様と思っているので大丈夫です。
人の命には始まりも終わりもあるけれど、きっと終わりにも意味があると思っています。
この映画を観た後に亡くなったことも、誕生日の直後であったことも、全部に意味がある。
ですから、教わったことを胸にこれからも生きて行こうと思います。
この映画が死について悲しいことだけでない様に描いたのも同じことではないでしょうか。
RAY

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