たてまち

女の子ものがたりのたてまちのレビュー・感想・評価

女の子ものがたり(2009年製作の映画)
3.5
2023.1.29 u-next にて再鑑賞

この作品は漫画家・西原理恵子の自叙伝的作品を映画化したものです。 脚本・監督は森岡利行氏。こんな繊細でナィーヴな映画を作るのはどんな人かと思いきや、いかついホルモン屋のおっちゃん(本人談)のようです。

良し悪しはありますが、監督が脚本を兼ねている作品のため、ストーリーを書き連ねている中、脳裏に映像も具体化されていくのでしょう。
さらに、設計図(脚本)を書いたのは自分なのだから作品の思い入れは最も強くなると思います。

本作が公開されていたのも知らなかったけれど、我が街の映画館でもやっているところはなかったです。 丁度、最後の「20世紀少年」の公開時期と重なっていたらしいですが、製作費も宣伝費も莫大な予算で、有名俳優バンバン出ている日本のメジャーな作品と、方や少ない製作費でひっそりと数少ない映画館で公開された「女の子ものがたり」
私は「20世紀少年」三部作をすべて見ましたが、もう一度観たいと思ったのは「女の子ものがたり」の方でした。

実は、劇中冒頭に「良いものを書いたら売れますよ」と編集者の財前が言ったら、漫画家・菜都美(深津絵里)が「プッ」と笑うシーンがあります。
例え良い映画を作っても、必ずしもヒットするわけではないという、もどかしさ、世の不条理を森岡利行監督は言いたかったのですが、まさにこの作品がそうではないでしょうか。

幼なじみ「きいちゃん」「みさちゃん」と西原氏であろう「なつみ」との波瀾万丈の少女時代。 きいちゃん、みさちゃんは貧乏で家庭環境も劣悪で、いわゆる「あのおウチの子と遊んではいけませんよ」に該当する二人でした。とは言え、菜都美の家庭も決していいお家ではなかったのですが、二人よりはマシでした。

例えば、「みさ」の兄が追突した車を証拠隠滅するため父母らと埋めてしまう。その隠蔽がバレて、3人は警察に逮捕されてしまうのです。 「きみこ」は生まれた時から父はいなくて、みさが靴を脱ぐと靴下が汚れるといって、土足で出入りする家庭環境。 生まれ育った環境が悪いと、どうして悪い男と付き合うハメになってしまうのかな。いや、親の教育が無かったため、彼女たちの立ち居振る舞いが不良っぽくなってしまい、自然とそういう男が寄ってくるのでしょうか。

きみこ、みさも暴力を振るう男と結婚し、顔にアザをつくったり、頭を怪我させられたりしています。 菜都美(大後寿々花)と親友のきみこ(波瑠)、みさ(高山侑子)とが、とっくみあいの大ゲンカをするシーンがあります。
きみこは菜都美に向かって大声で怒鳴る。
「この町から出て行って二度と帰って来るな!」
「お前なんか友達じゃない!」
親友でありながら、自分たちとは違うことを感じていたきみこ。
貴女は私達と付き合っていては駄目だ。
あえて、自分から突き放そうとします。

きみこ役の波瑠の演技がとてもイイ。表情が素晴らしい。 そのシーンを終えてカットがかかった瞬間、3人は感極まって号泣したそう。熱演が彼女たちの感性を刺激したエピソードです。
私は「グッド・ウィル・ハンティング」を思い出した。不良仲間のベン・アフレックが、不良でありながら天才のマット・デイモンにこいう言います。
「お前がまだこの町にいるなら、おまえをぶっ殺す」
とちらも、友の才能を生かすための、友の言葉なのです。

ラストはまさに感動的でした。 このラストは作品の出来を大きく左右しているといっていいでしょう。 久しぶりに東京から故郷に戻ってくる菜都美。 きみこが町から出ていけ、といったのは菜都美のためを思ってというのがわかるシーンが用意されてあります。
きみこは菜都美を忘れてはいなかった。 いや、「なっちゃんは」いつも自分の側にいた。 こういう友を想う行為も存在するんだなぁ、と溢れる涙を抑えきれませんでした。

みなさんも経験ありませんか? 幼小中高大といった学生時代の友人多数は、何の打算もなく知り合った。好きで自然発生したインフォーマル・グループです。 会社で知り合った同期、知り合いは友人かなぁと思っていたら、会社が変わった途端、何の連絡もとりあわなくなる。 彼(女)たちとは好きで付き合っていたのではなかったフォーマル・グループ(公式組織)だったのです。 みなさんもよくわかると思いますが、幼少時からの友達は、大人になってから知り合った友達とはちょっと違う。 会ってなかった期間がいくらあいてても、何ともない。昔と同じようにすぐ打ち解けて話すことができる。詐欺師も幼なじみは騙さない。

「友人になった年齢が幼いほど、絆は深い」 昔の幼なじみはどうしてるのかな、久しぶりに会いたいな、故郷へ帰ろうかな。 そう思わせるいい映画でした。