ウーピーブロンズバーグ

大人は判ってくれないのウーピーブロンズバーグのレビュー・感想・評価

大人は判ってくれない(1959年製作の映画)
4.5
私は少年期のノスタルジーを感じる作品は嫌いじゃない。しかし、実際にあの頃に戻りたいとは決して思わない。とても息苦しかったからだ。
 この作品を見終えたとき、少年期のノスタルジーよりも恐怖感を覚えた。大人たちの価値観や決定に振り回されていることをぼんやりと理解しながらも、自分自身で生きていくには余りにも弱すぎた少年のころ。映画を見ながら、あの頃を懐かしむ感情を抱きながら「いやでも息苦しかったあの頃には戻りたくない。」、ノスタルジーと恐怖は紙一重であると感じた。
 自分の人生を自分自身で選択することはできない。自由を求め初めて海にたどり着いた主人公が逃げた先の行き止まりを悟ったのか、波打ち際から少し浜辺に2、3歩戻るラストがとても印象的だった。
 私は少年期水泳を習っていた。友達数人と一緒に通い始めたが級が上がることに一人、また一人と別の級になり終には私一人だけが一つ遅い時間帯に通うことになってしまった。友達がいなくなった私は、親に内緒でサボるようになった。サボりがばれて怒られるのが怖かった私は、毎週毎週あたかも練習に行ってきたような嘘を親につき続けていた。学校をサボった主人公は、父親に学校で『野ウサギ』を学んだと嘘をついた。自分ではどうすることもできない、家庭と学校の狭間で摩耗する。誰も信じてくれないから嘘をつく、その場その場をうまくやり過ごそうと小さな嘘をつき続け恐怖に怯えていた主人公に少しだけ自分が重なった。これだから子供時代は本当に嫌いだ。二度と戻りたくない。
 そういった感情を呼び起こさせてしまうほど、この映画は少年期の苦しさをとても正確に描いていると思う。また、主人公の両親からすれば教育を施しているはずなのに主人公は成績不振、いたずらや非行ばかりしてしまうという側面しか見えない。その結果に至るまでの過程は彼にしか分からないのである。子供からすれば『大人は判ってくれない』だが、親からすれば「子供は判ってくれない」なのであるとも感じた。
 複数回鑑賞するにはあまりにも精神をすり減らしてしまうので勇気がいる作品だが、私は間違いなくこの作品が好きである。