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大人は判ってくれないのPinchのレビュー・感想・評価

大人は判ってくれない(1959年製作の映画)
4.7
自分の過去を思い出せば、子供の頃っていうのは程度の差こそあれこんな感じじゃないの。大人が判ってくれるはずがない。お前らは汚くて底が浅いんだよ! 一方、子供も大人のことなど判るはずがない。こっちはお前らと違って大変なんだからな! この映画の真骨頂は、大人の視点を排除して100パーセント近く子供の視点に集中したことだ。

「判って欲しいのに判ってくれない」という子供のいじけた孤独感を表す邦訳は、名訳ながらちょっと違うのかもしれないという気がした。原題("Les Quatre Cents Coups")は、「好き勝手し放題」という感じの意味のようだ。だから、この映画は「納得できないことが多くて耐えられないから、もうここは好き勝手し放題やってやるぜ」という感覚に至る過程を描いているんじゃないの。基盤となるものは、善悪のほどは別にして、誰もが経験する思春期の感覚。邦訳は、いろいろなことが判るようになった大人の視点から見た子供の心理を表していて、子供に対してこうすべきああすべきという大人の道徳観を優先しているように思える。それもこの映画が呼び起こす重要な感覚ではあるが、それがメインとは言えないんじゃないか。

ラストのストップモーションは、安心したい大人たちに対する"NO"のように見えた。抑制を利かせて日常を容赦なく客観的に映し出し、最後に無言で何かを語る。やはり、ヌーヴェル・バーグの傑作だ!
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