サマセット7

耳をすませばのサマセット7のレビュー・感想・評価

耳をすませば(1995年製作の映画)
3.8
スタジオジブリの長編アニメーション作品。
監督は「魔女の宅急便」や「もののけ姫」などのスタジオジブリ作品で作画監督を務めた近藤喜文。
製作、脚本に「魔女の宅急便」「千と千尋の神隠し」の宮崎駿。
原作は柊あおいの同名漫画。

[あらすじ]
中学3年生の月島雫(本名陽子)は、図書館で借りた本の読書カードに、いずれも「天沢聖司」の名前があることに気がつく。
雫は、ある日、電車に乗って移動する白い大きな猫を追いかけて、丘の上の「地球屋」なる骨董品店にたどり着く。
店にあった猫の人形は店主から「男爵」と呼ばれており、雫は男爵に心惹かれる。
その後、雫は、地球屋を通じて、天沢聖司と出会い、そして、自らの将来に関するある決意をすることになるが…。

[情報]
スタジオジブリの8番目の劇場用長編アニメーション作品。

原作漫画は、単行本一冊で完結した、比較的短い少女漫画だが、連載時に雑誌で読んで興味を持った宮崎駿が、オファーを出し、映画化が実現した。
映画化にあたり、人物の性格や夢など、いくつかの要素が変更されている。

監督は、長年高畑勲、宮崎駿の下で作画を務めて来たアニメーターの近藤喜文が務めた。
近藤喜文は、スタジオジブリ作品の作画、演出において重要な役割を担っており、将来を嘱望されていたが、過酷な労働環境が祟ったか、今作公開の3年後、1998年、47歳の若さで早逝している。
結果的に今作が近藤喜文の最初にして最後の監督作となった。

東京都多摩市が舞台になっており、1994年当時の実在の風景が用いられる場面が多くみられる。

ストーリーは、中学3年生の雫が、同い年の聖司や地球屋との出会いと交流をきっかけに、夢と恋に向き合う様を描く。
ジャンルはアニメーション、青春、ジュブナイル、ラブストーリー。
家族もの、学園もの、ファンタジーの要素も含む。

ジョン・デンバーの「カントリー・ロード」及びその日本語版がテーマソングとなっており、作中で重要な役割を担う。

今作はストレートな青春ラブストーリーとして高い人気を博している。
一方で、あまりにも眩しい恋物語に、観た後憂鬱になる、といった声も聞かれる。
興収31億円は、なかなかの成績だが、ジブリ作品としては中の下のヒットといったところか。

[見どころ]
眩し過ぎる青春!!!
丁寧に描写される、中学3年生の、日常、家庭、友人関係、学校生活!
幻想的な地球屋の情景!
カントリーロードの印象的な演奏!!
「猫の恩返し」でもメインキャラクターとして登場する猫人形のバロンと白猫ムタ!!
そして、何より、雫と聖司の甘酸っぱい恋!!!!

[感想]
甘酸っぱい!!

近藤&宮崎駿のコンビは、丁寧にエピソードと情景描写を積み重ね、現実には存在しない「青春物語」を、「ひょっとしたらどこかにはあったかも」と錯覚させるレベルに持ってくる。

まずは、そのエピソードひとつひとつを味わい、胸をときめかせるのが、今作の最大の楽しみであろう。
親友の恋の行方!!
「やな奴」の連呼!!
図書館!!
自転車二人乗り!!
ラストシーン!!!

個人的に1番印象に残ったのは、地球屋での、カントリーロードの演奏シーン。
雫と聖司の距離の縮まりを、音楽を用いて問答無用で納得させる、名シーンだ。

スピンオフの「猫の恩返し」との関係では、バロンとムタの登場も見逃せない。
ところどころ、同じ楽曲や同じ街のシーンも見られる。

正直、中学生の純粋過ぎる悩みや葛藤、恋は、私には眩し過ぎた。
子を見守る親の視線で見てしまったことは否めない。
そうなると、とにかく、もがけ、若人たち!以外の感想は出てこないのである。

[テーマ考]
今作は、思春期の揺れ動く恋心を繊細に描くと共に、クリエイター志望者の初期衝動と、周囲との折り合いのつけ方を描いた作品である。

地球屋店主の原石に関する話、聖司と雫の挑戦、雫の家族との対話などは象徴的だ。

無論、こうしたテーマは、クリエイターの先人である宮崎駿や近藤喜文の、後進に対する激励のメッセージ、と受け取ることが可能だろう。

[まとめ]
スタジオジブリ作品中でも、最も甘酸っぱい、青春ラブストーリーの佳作。

こうしたストーリーの中にも、猫を追いかけるシーンや自転車での疾走など、絵を動かす面白さを入れ込んでくるあたり、さすがジブリ作品だ。