「君たちはどう生きるか」がどんな作品なのかはこれを書いている時点で全くもって分からないのだが、このタイトルが字義通りの意味を持つのであれば(んな訳ないか?あるか?)、その"問い"に対する答えはすでに今作で提示されている。
甘酸っぱくもなければ胸キュンでもない。恋愛はあくまでも一側面に過ぎない。これは宮崎駿と近藤喜文から当時の若者達(つまり私であり、今の大人)へ向けた祈りと賦活の物語。
もっと言えば、全てのブルーにこんがらがったベッドルームへ向けられた「パンク」という態度についての物語なのだ。ー
今作の制作エピソードとして有名な「雫のパンツ見せろ見せない論争」を押し切った近藤喜文監督の焦点を誤魔化さないリアルな眼差しと、宮崎駿の"理想"。このバランスが素晴らしい。うどんのシーンしかり。
画家の井上直久による幻想的な「イバラード」の世界観を採用したのは宮崎駿の意向だそうだが、雫達の住む現実世界としての街並みとのコントラストはまさにアニメならではのロマンティックとリアリスティックの狭間を創り出していてこれも素晴らしい。あと音楽…。
でも結局今作で一番好きなシーンはどこかと聞かれたら、地球屋主人こと西司朗が、思うように物語が書けず、見えない将来への不安からもがき苦しむ雫へ優しく声をかけるシーン。
「そう、荒々しくて、率直で、未完成で。聖司のバイオリンのようだ。雫さんの切り出したばかりの原石を、しっかり見せてもらいました。よく頑張りましたね。あなたは素敵です。あわてることはない。時間をかけてしっかり磨いてください」
ここだけはマジでいつ観ても嗚咽が漏れるぐらい泣く。
これはまさにパンクだ。パンクの精神。
「お前がやれ。お前は常に最高なんだ。」
言葉の選び方や手段が異なるだけで、アティチュードはジョー・ストラマーなのだ。
鑑賞当時まだ一桁の年齢だった私がその後出会うSNOOZERという雑誌と、その雑誌がオファーしてくれた音楽達から受け取ったものの全ては、すでに今作で提示されていた。
まぁ公開当時と現在とで経済成長していない日本には割と絶望するけど、ジブリが生み出したカミングオブエイジ作品の中では、というか全ジブリ作品の中でも頭ひとつ抜けた傑作。
Spotifyで聞けるthe sign podcastの「人生のサウンドトラック」企画が始まった事に触発されて、子供時代に影響されたものを思い返していたらこんな感想になってしまった…。