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関の彌太ッぺのblacknessfallのレビュー・感想・評価

関の彌太ッぺ(1963年製作の映画)
3.7
SNS中毒でよかったことは感性や趣味が近い友人知人が増えたこと、また、逆に同じジャンルでもまったく好みや追ってる方向性が違う人と出会え、自分のアンテナには絶対引っ掛からない作品を教えてもらい視野を広げてもらえること。
これは後者のルートで観たやつ。

萬屋錦之介なんて東映が発狂してイケイケになる前の人畜無害で退屈でベタな頃の代名詞的な偏見を持っていてまったく触れる気がなかった。
これを観て自分の不見識を猛省したね。

確かに話自体は流れ者がひょんなことから孤児なった女の子と出会い、陰ながら彼女を助ける落語の人情話にありそうな、それこそベタなお涙系ではあるけど見せ方が思いの外垢抜けててかっこいいんだよ。

錦之助が自分の思ってたのとまったく違ってた。
前半に見せるコミカルな演技にまず驚かされた、顔は勿論端正なんだけど普通に気っ風はいいけど抜けたとこのある流れ者って感じで2枚目臭がない、本職がコメディの人みたいで。
そして後半の悲劇的な運命に疲れニヒルでやさぐれた博徒に成り果てた眼光や物腰の雰囲気が前半とは全然別人になる。
10年の歳月ですっかり生きることに疲れた男としての退廃が良く出てた。

まあ、かなり不自然なメイクでやつれ感出てして見ようによってはおもしろい感じではあるけど、演技がうまいからそんなに気にならない。
まあ、でも、ちょっとアイシャドーが濃すぎて変だけど😂

勝手にこの頃の時代劇のスターは終始カッコつけて、見栄切った殺陣をやって終わりみたいなもんだと思ってたんで、かなり衝撃的だった。

それとカメラワークや演出、脚本の完成度の高さにも驚いた。
この映画、メインは少女と流れ者の話だけど他に錦之助と弟分の出会と友情から裏切りと決裂までのドラマも絡めて博徒ドラマにもなってる。
雨の中の竹藪での大立ち回りの殺陣はチャンバラと言うにはあまりに激しく生々しい迫力がある。
よくシネフィルっぽい人が黒澤明以外の殺陣は嘘っぽく迫力がないって言ってるけど、それは自分の見識を誇示したくて誰かが言った言葉の受売りで、まさにおれと同じように実は他の時代劇映画を観てないんじゃないかと、このシーン観て思った笑
けっこうドラマも見せ場盛り沢山なのに90分で収めてるのがすごい。そして、あるセリフを前半と後半に持ってきてクライマックスを盛り上げて印象的なものした演出にグッときた。
なんか今の監督よりうまいのかも?これを今やって90分で収められるかな?無駄にベタベタメソメソさせて長くなりそうな気が笑

任侠や人情に強い拘りがあると自負する山下耕作監督だから、ウェットでベタベタな愁嘆場を見せ場にはしてるけど、この時代の過酷さや博徒の孤独なんかをドライなタッチで撮っている。
このバランス、何かに似てると思ったら西部劇なんだよね。
流れ者が偶然の縁から人助けをして去っていくプロットも西部劇でもよくあるし。

時代劇映画を舐めていけないってことだな😬💨
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