ヒロオさん

サンダカン八番娼館 望郷のヒロオさんのレビュー・感想・評価

サンダカン八番娼館 望郷(1974年製作の映画)
4.0
日本帝国主義の時代、島原・天草から東南アジア植民地へ売られた、からゆきさん(海外娼婦)の悲哀と差別に満ちた人生の話。

日本女性史研究家である山崎朋子によるノンフィクションを映像化。
女史が3週間、元からゆきさんと生活し、聞き書きした内容である。

後世に遺すべき、価値ある作品。
歴史を知れるし、からゆきさんの境遇や当時の雰囲気をイメージで捉えることができた。

研究の一環で天草を訪れた女史は、かつてのからゆきさん、おサキさんと出会う。優しいおサキさんに案内されて辿り着いたのは、部落の最も奥ばったところにある貧しい家。自身が学者であることを言い出せないままおサキさんとの生活を始め、その波乱に満ちた人生を知っていく。

貧しすぎた幼少期。「海外へ働きに行けば、白い飯が食える、良い着物が着れる」との言葉に騙され、幼くして娼婦の道へ。日々、悔しさや、やりきれない気持ちを抱えながらも、無理に覚悟を決めて頑張る。

そんな境遇であるのに、残酷にも待っていたのは差別だった。
娼婦を搾取した金によってインドネシアで会社を建てた男が、帝国の発展に寄与したと国から勲章を貰う傍ら、娼婦はクズ扱い。
故郷帰ってみれば、外聞が悪いからと疎まれ、仕送りしてきた兄からも裏切られる。老後になっても、部落では肩身が狭く、息子家族も寄り付かない。

おサキさんの心の痛みは計り知れないが、その断片を追体験することができた。

また、おサキさんと向き合う際の女史の感情がリアルであった点も非常に良かった。流石ノンフィクション。
人から傷つけられ続けた人生だったからこそ生まれる寂しさ、優しさ、繊細さ。
そういうものを相手の節々から感じると、聞き取るという目的を持って近づいた自分が醜い存在に思えてならず、相手を利用していると思って、苦しくなるんだよなぁ…。
私自身、ハンセン病の元患者の元を訪れていた経験があるので、この女史の気持ちにはとても共感できた。
ヒロオさん

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