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ナチス、偽りの楽園 ハリウッドに行かなかった天才のodyssのレビュー・感想・評価

4.0
【遅すぎた状況判断と遅すぎなかった映画】

ユダヤ人クルト・ゲロンの生涯をたどったドキュメンタリー映画です。この作品を見るまで、クルト・ゲロンの存在すら知りませんでした。

ヴァイマル共和国時代に演劇や映画でのし上がり、リッチな生活をしながら、ユダヤ人であるが故にナチ政権成立後はドイツから追われてしまう。

その後、アメリカ・ハリウッドからの誘いがありながら、ヨーロッパを離れようとせず、逆に切羽詰ってアメリカに逃れようとした時期にはハリウッドから謝絶されてしまう。この辺の間の悪さは、本人の状況判断のせいもありますが、結局は運不運だろうと思います。私は株はやりませんが、株の売買のタイミングうまくつかむのが難しいように、ナチ政権下のドイツの状況を見極めるのは、現場にいた人たちには難しかったのでしょう。

それと、国際機関がナチのユダヤ人収容施設を査察して見事に騙されるところが、今日にも通じる教訓として重要ですね。全体主義国家のウソを見破るのは、実は結構難しいということです。

この映画に登場して在りし日のゲロンについて証言する人たちは一様に年をとっている。当たり前ですね。2003年の製作といえ、第二次大戦が終わってからもう半世紀以上経っていたわけですから。その意味ではまさにぎりぎり間に合ったわけです。ゲロンは亡命の決意をするのが遅すぎたけれど、この映画は製作がぎりぎりで遅すぎなかった。幸いにして、と言うべきなのでしょうか。
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