猫脳髄

脱出の猫脳髄のレビュー・感想・評価

脱出(1972年製作の映画)
3.7
ジョン・ブアマン、やっぱりヘンテコな監督である。大自然のロケーションと隅ずみまでキリっとしてボケのないヴィルモス・ジグモンドのカメラワーク、主演のジョン・ヴォイトはじめ役者陣の演技、そして渓流下りと地元民との対決と言うスリル…と一見アドヴェンチャー・スリラーとしては申し分ないように見えるが、実のところ、本作が一体何を語ろうとしているのかトンとわからないのである。

ヴォイトやバート・レイノルズら4人の男がいずれダムの底に沈むという渓流下りを目的に、アメリカ南部の山中を訪れる。地元民を小バカにした態度にいきなりヒリつくが、まずは順調に渓流に漕ぎ出す。しかし、途中で遭遇した2人の地元民がヴォイトらを襲い、事もあろうか仲間のひとりを犯してしまい…という筋書き。

エピソードが繋がっているようでそうでもなく、地元民との対決もヒロイックな演出を施したと思いきや、その後ヴォイトたちは事件の隠ぺいに汲きゅうとする。たっぷり時間を残して渓流下りは終わってしまい、そこから何か起こりそうで起こらないという、不穏ではあるがよくわからない時間が過ぎてエンディングを迎える。

この座りの悪さは、ブアマン(および脚本)が作品にサブテキストを盛り込み損ねた、あるいは部分的にしか成功しなかったせいではないか。そもそも原題の"Deliverance"とは外在的な"救済"という意味が強く、あくまで「アドヴェンチャー映画」に収れんさせようとする邦題とのズレがあることには留意すべきである。ならば本作の救済の問題はどこにあったかと言うと、それは罪を犯してしまった4人の男がそれぞれ辿った運命の在りようだったのだろう(※1)。ゆえに渓流下り後もシークエンスが用意されていたが、残念ながらその演出が不首尾に終わってしまった。

ただし、南部の人里離れた集落に漂う閉鎖性(※2)と漂う不穏さの演出には大成功している。冒頭からこんなにヒリつく厭な感じはそうはない。ヘンテコ映画であるが、見どころは随所にある。

※1 リーダー風を吹かしてたバート・レイノルズが急激にヘナチョコと化すのもこの一環だろう
※2 同時代で言えばトビー・フーパ―「悪魔のいけにえ」(1974)が近い。ただ、奇形児や病人など、近親相姦を仄めかす描写は本作の方が厭らしい
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