寝るのだいじ

精神の寝るのだいじのネタバレレビュー・内容・結末

精神(2008年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

精神障害者が身を寄せ合える、精神科医院兼ショートステイ場の話。実話。

「ドキュメンタリー」ではなく「観察」と題しているのがよかった。
脚色や意図的な編集が無く、ありのままの日常だった。健常者が当たり前の世界で生きているので、このようなわかりやすく伝えたくれる作品はありがたい。

障害者は自らカーテンで存在を隠そうとするという表現が的確だった。
本作品には、精神障害と精神疾患が混在していたように見えた。(以下、精神障害と呼ぶ)

世間的に障害者が忌み嫌われるのは、健常者であり全てを自己管理できる前提で社会が回っており、健常者ですらテンポを合わせるのにただでさえ必死だから、足を引っ張るなという気持ちがはたらくからだと考えさせられた。

精神障害は後天的なものであれば、なんでもできた自分と現在の自分との乖離で尚更苦しむだろうし、先天的なものだとしても必死な健常者に足蹴にされるのだから苦しい。
しかし現在の高度な技術や社会を回してくれる健常者がいなければ成り立たず、精神障害者が社会に参画や貢献できるかと言われると考えにくい。お互いの支え合いができない。
仮に支え合いの仕組みを作るとしても、立案は健常者になるので負担が大きくなり、そもそも立案自体が難しくなる。

必然的に、健常者に許されて精神障害者には許されないようなことが多くなる。
最後に映っていた利用者も、運転免許が無いと言いながら原付に乗っていた。
皆の安全のために免許はあるが、それが取れなくても移動手段が欲しくて乗るのかもしれない。そもそも免許の大切さを理解できていない可能性もある。
高齢者ドライバーの事故が多発する中でも、郊外に住んでいるため免許返納をしづらい背景とよく似ているように感じた。

「選択ではなく、その選択を正解に変えることが重要」という考え方があり、私も共感するが、それができるのは健常者のみなのだとも思い知らされた。
一度大きな挫折を経験して、そこから立ち直れるのは大抵励ましてくれる信頼できる人がいるとか、家族に愛されて育ったとか、心の土壌がしっかりとしている。命からがら生きている人は、一度折れると行く先々で危ない選択をし、自身をダメにしていくし自尊心も失くなっていく。

現在の日本社会では、精神障害の患者を増やそうとしているとしか思えぬほど、一度の失敗を許さず、経済力が無ければ選択の余地も無くなるものになっている。
手付かずの、何も福祉が行き届かない現状と、働きかけたくても自分の生活に精一杯の目の前にやる瀬無さがある。