スギノイチ

下郎の首のスギノイチのレビュー・感想・評価

下郎の首(1955年製作の映画)
4.0
状況だけ見ればまるで喜劇で、実際に前半の田崎潤は哀愁と可笑しみが混ざったようなユーモラスな演技だが、それが返って悲劇を予感させる。
後半はひたすら残酷の連鎖で、片山明彦は命欲しさに田崎潤を差し出し、追っ手は田崎潤を無機質に追いかける。
もはや憎悪すらもなく、封建社会のシステムだけで殺し合いが行われる。

いよいよ処刑場に場所が移ると、これでもかと辛い場面が続く。
哀願虚しく主人の裏切りを知った田崎潤の憤怒と、恋人へのリンチを見る瑳峨三智子の絶叫。
殺陣も型もめちゃくちゃに、死にものぐるいの抵抗をする田崎潤は熱演で、本当にこれから殺される人間を見ているようだ。

弱いくせに偉そうで、肝心なところでは従者を売るような片山明彦は、いかにも作中のヘイトを集めるキャラクターだ。
ただ、自分が討ったわけでもない仇討のために「さあ殺されてくれ」と言われて、果たして受け入れられるか自分に置き換えてみると、ちょっと考えてしまう。
小沢栄太郎を見つけぬまま旅を続けて、田崎潤と一生を終えていた方がどんなに良かったろう。
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