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空軍大戦略のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

空軍大戦略(1969年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

第二次世界大戦前期、英国本土上空の制空権を巡る英独の戦い「バトル・オブ・ブリテン」を描いた作品。
CGなどない時代ゆえ、多数の実物の飛行機がほぼ当時の姿で登場。
実機が華麗かつ凄まじいスペクタクルな空中戦を繰り広げる戦争映画の佳作である。

本作は間違いなく空中戦を描いた戦争映画の中では最高峰の一つだろう。
映画の主役は、英国のスピットファイアにハリケーン、ドイツのメッサーシュミットとハインケル。
この4機種の航空機であると言っても過言ではない。

複数のスピットファイアの機体が実際に動き、広大な牧草地を走って離陸する様は実に壮観。
戦時中の記録映像はモノクロのものしか見たことがないが、当時はこのような光景が各地で見られたのだろうと思うと、本作での再現は大変貴重なものに感じられる。
ミリタリーオタクには垂涎だろう。

英国の空軍基地をメッサーシュミットが地面スレスレの低空飛行での攻撃は恐ろしさくもリアリティ満点。
何せ本物なのだから迫力が違う。

時折、特撮は交えられるものの、爆撃機ハインケルの爆弾投下による被害の再現も規模が大きく、破壊された基地の全景を映し出す空撮は、かなりの予算をかけた大作であることが一目で分かる。

ドイツ軍は主たる基地と工業都市を爆撃し、イギリスに多大な被害を与えるが、途中で主要な空襲目標をロンドンに変えたことにより、力を蓄える隙をイギリスに与える。
イギリス空軍はポーランドからもパイロットを募り、反撃の準備を整えてゆく。

クライマックスの決戦は圧巻。
本当に眼下にドーバー海峡の白い崖「ビアシィ・ヘッド」が映る、実際の場所での大空中戦の再現だ。
英独のパイロットが命をかけた死闘なのだが、華麗に空中を舞うスピットファイアのアクロバット飛行は、それが戦争であることを忘れるほど美しい。

戦闘やその被害のディテールは凝りに凝っているのだが、残念ながらドラマの部分が充実していないのが、本作の大きな難点。
様々なエピソードを綴っていく群像劇になっており、特定の主人公や明確なストーリーがないのである。

出演者は大作の名に恥じない豪華メンバーで、ローレンス・オリヴィエを筆頭に、クリストファー・プラマー、マイケル・ケイン、ロバート・ショウ、ラルフ・リチャードソン、マイケル・レッドグレーヴ、トレヴァー・ハワード、エドワード・フォックス、イアン・マクシェーン…etc。
英国のスター俳優や演技派たちの若き日の姿気品と色気溢れる姿を確認できる。
ドイツ側にも名優クルト・ユルゲンスを配していて、敵に敬意を持って公平に描こうという思いが感じられる。
何より、ハリウッド産の戦争映画とは違い、ドイツ軍の俳優にはきちんとドイツ語でセリフを言わせているので、演技と言葉のニュアンスがきちんと一致して見えるもの良い。

それぞれのキャラクターの性格は俳優陣の演技で何となく分かるものの、それぞれのドラマが少ないために戦いに賭ける思いや、身近な人を失うなど戦争の悲惨さというものがなかなか伝わって来ない。
主要キャストがほとんど死なないということも悲劇性に欠けている。
イギリス側もドイツ側もパイロットの会話は爽やかで意気揚々としており、青春映画のようにすら見えてしまう。

男ばかりのキャストの中、ドラマは女性軍人として紅一点のキャスト、スザンナ・ヨークのパートが印象的だ。
パイロットの夫、クリストファー・プラマーの無事を願い、自身もドイツ軍にまず狙われる危険な空軍から転属しようかと思っていた矢先、勤務する基地が爆破され、同僚女性の死体を目の当たりにして茫然自失となる。
敵討ちなど出来ず、逃げることしかできない無力さに唇を噛み締める姿が、最もドラマでは印象に残る。

最も印象に残るのはラストシーンだろう。
ドイツ軍人にすら「スピットファイアが欲しい」と言わしめるほど、素人目にも分かる圧倒的な性能差で、英国が勝利を収めて終わるのだが、それまで全編を通して全く無かった静寂が突然訪れる。

敵機の影も無く、空襲警報も鳴らない。
こんなに静かで良いのか?と拍子抜けするパイロットたち。
連戦に次ぐ連戦で訪れた静寂を実感できないのだ。
物語はイギリス側とドイツ側の被害の大きさを比較するテロップで終わる。

劇中ヒトラーとチャーチルがそれぞれ1シーンだけ登場するが、ヒトラーは演説する後姿、チャーチルに至っては遠景から映すだけでセリフもなし。
軍の上層部よりもパイロットたちの姿を追ったのも、歴史を作ったのは政治家ではなく、名もない飛行士たちだったのだということを訴える演出のような気がする。

監督は007シリーズを4本も監督したガイ・ハミルトン。
空中戦に見るエンタメの手腕は流石である。
だが、特筆すべきヒーロー不在の物語は、イギリス空軍礼賛の英国プロパガンダにならぬよう描いた結果ではないだろうか?
ともあれ、実機による戦闘の再現は一見の価値があることは約束する。
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