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君のためなら千回でものしおえもんGoGoのレビュー・感想・評価

君のためなら千回でも(2007年製作の映画)
3.3
原作既読。

原作はとても良かった。映画も概ね原作通りに進んでいくのだが、ただ仕方がないとは言え圧倒的に描き込みが足りないと感じる。
原作に描かれた要素は確かにシーンとしては入ってるのだが、あまりにも淡々と事柄が進んでいくので、何か薄味というか「原作を映像化しました」というだけに収まってしまったように感じた。

原作は大人のアミールが語り手になっているので余計に彼がハッサンや父親のババに向ける複雑な感情が語られるし、アミールとハッサンが乳兄弟である事や、ラヒム・ハーンとハッサンがいかに救いになっていたかも分かる。アミールのやったことは酷い事だが、そんなアミールに同情する部分もあるのだが、映画では感じ悪い面が強く出てしまって残念だった。

私はアフガニスタンについては良く知らなくて、地図上でどこにあるのかもはっきり分かってない。アフガン侵攻っていうのがあって(何故そんな事態になったのかもよく知らない)、とにかく国が荒れていて、「怖い(危ない)国」という印象しか持っていない。正直イランと混同してる面もあるし。
しかしこの作品でソ連やタリバンによってめちゃくちゃにされる前の平和な時代や、それによって苦しむ人達について考える事になるし、誰だって好き好んで他の国にいる訳ではないよなとも思う。
危険だから国を離れた人、残った人、残らざるを得なかった人、色々葛藤や思う所があるのだろうし、それは平和な日本で暮らす私にはどうこう言える話ではないだろう。

文字では分かりづらい昔と今のアフガンの光景を映像として見られたのは良かった。
またカギとなる凧合戦も実際にあんなにスピード感があるのか分からないが、大空に舞う様が爽快だった。

以下ネタバレあります。


この作品が持つらせん構造というか、前半に出てきたことが後半で再び繰り返されていく流れがとても良いと思う。
無償の愛を向けてくれたハッサンを裏切ってしまったアミールが今度はソーラブにその愛を向ける。
偉大な父の裏の顔を知って失望したのちに、父の行動の背後にあった心境を理解し、その跡をなぞる。
その他の伏線にしても因果が回るように少し違う形で繰り返されていくことで「いつからでもやり直すことはできる」というメッセージを伝えてくれる。

その他
・カブールで手伝ってくれた運転手はファリドという名前で、原作では非常にナイスキャラなのでぜひ原作を読んで欲しい。
・宿敵との殴り合いのシーン、脱出のハラハラ感が欲しかったのかもしれないけど、あそこも原作通り「一対一で決闘するからこいつが勝っても絶対手出しすんな」という話でやり合う方が良かったと思う。というのは、原作では到底あんな逃走劇が出来ないほど半殺しにされるし、そこまでの傷を負う事がアミールの覚悟と贖罪の表れでもあるように感じるから。あとシンプルに逃げきれないでしょ というのもある。
・平和な時代のアフガニスタンは今よりもずっと自由だけど、現代日本の目から見たらあの名誉や家柄重視、人脈重視、マチズモ的な社会は馴染めなければしんどそう。
・「アフガニスタンカブールで、イランテヘランなんとかかんとか」という首都を覚える歌みたいなのを思い出した。ここしか覚えてないんだけど。
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