半兵衛

現代やくざ 血桜三兄弟の半兵衛のレビュー・感想・評価

現代やくざ 血桜三兄弟(1971年製作の映画)
4.3
通常のやくざ映画のパターンを鉄砲玉・小池朝雄とやくざではない荒木一郎が壊していくのが不思議な快感と化していく作品、小池を荒木が襲撃して殺害する場面は二人のドライブ感のある演技が作り物の空気をぶち壊して生々しい殺人の感触を残して圧倒される(それを長回しでとらえているのが◎)。

やくざのしみったれた世界をリアルに描く野上龍雄の脚本も素晴らしく、通常のやくざ映画では出てこない生々しい存在感のある二人のヒロインも女性描写を得意とする野上氏ならでは。

やくざ映画では珍しく中盤まで暴力描写が薄くひたすらせせこましい駆け引きと大組織と小さい組織の力の図式を見せつけられる展開も異色で、そんな状況に追い詰められていき身内から攻撃され反旗を翻す流れも変わっているが労働者やくざ映画スタイルの本作にはぴったり。

『893愚連隊』よりもそれなりの位置にいるがやはり不安定な立場にいる主人公三人のキャラクター配置も見事で、特に下層のチンピラ渡瀬恒彦の伸び伸びとしながら自分の立ち位置に歯がゆさを覚えているアウトローっぷりが印象的。

女性の足からそれを覗く荒木一郎をとらえるアングルが童貞感があって◎。ラストの炎に囲まれながらの戦闘も派手で見ごたえ有り、そして東映ではじめて火だるまになる川谷拓三のインパクト(ちなみに日本ではじめて火だるま演技をしたのはゴジラの中の人で知られる中島春雄)。

殴り込みのあと、取り残された荒木一郎を通してこの映画のように派手なことも出来ずただねちょねちょ生存していくしかない現実をつきつけるラストに痺れる、そして唐突にもたらされるエンドロールのかっこよさ!

本作では野坂昭如による『マリリン・モンロー・ノー・リターン』が何回が流れ、どうしようもない状況に生きる主人公たちを悲しく彩る。荒木一郎も劇中『マリリン・モンロー・ノー・リターン』をワンフレーズ歌うが、めちゃくちゃかっこよくてさすが才人と唸ってしまう。
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