映画は遠い過去のはなし

哥(うた)の映画は遠い過去のはなしのレビュー・感想・評価

哥(うた)(1972年製作の映画)
3.5
◎これもATG配給の作品で、「無常」「曼荼羅」に続く「実相寺監督の日本三部作」の完結編にあたる。彼の作品はおそらく初めて。

◎丹波篠山、旧家森山家、三兄弟。家を売ろうとする者と家を護る者。
兄弟達の中で、唯一家を護ることに固執する三男の淳がせっせと雑巾掛けをする。家も大切にされていることに喜び応えているのか⁉︎、淳と一体化しているのか⁉︎雑巾掛けの音が妙に官能的で思わせぶりな不思議な音。

◎古い日本家屋の中を流れる横移動のカット、静寂の中で刻まれる秒針、極端にクローズアップされた顔、喉、筆。
午前0時のアラーム、夜回りする淳。懐中電灯の明かり、不気味に鳴り響く下駄の音、ホラーのような緊張感と緊迫感。
淳と謎の僧侶との会話。秀逸なズームアップと効果音。この時の淳が一番幸せそうな顔をしている。
八並映子演ずる夏子のサスペンスフルな表情と演技。
森山家の長男としてのプライドのかけらもない康は言う「日本にはもう護るべき価値あるものはない」
淳は言う「中身がなくとも形さえあれば命は復活する。森山家の土地だけが最後の砦、それを失えば、魂の拠りどころである
形を失うのです」
放蕩息子で次男の徹は言う「ヨーロッパ、アメリカ、日本も滅びたんだ。世界そのもの存在そのものが一つの夢なんだよ。この宇宙を構成している無機物の気まぐれの一つなんだよ」
滅びゆく森山家、廃れてゆく日本を憂いているかのように映し出される河の流れ、山林に差し込む光と陰、そびえ立つ杉の木。

◎やっぱ一番面白いのは淳が夜回りをするシークエンス。不純な情事、覗き、誘惑、虐待、シカト。殺人はないけど、懐中電灯による限られた視野に映し出される登場人物達の恐怖の表情、旋律の早いクラシック音楽による緊迫感、鳴り響く秒針、下駄の音など細かい演出が秀逸。
しかし、ジャケ写は少々頂けないなぁ。