櫻イミト

硝子のジョニー 野獣のように見えての櫻イミトのレビュー・感想・評価

4.0
芦川いづみの自他共に認める代表作。アイ・ジョージのヒット曲「硝子のジョニー」(1961)を主題歌とした歌謡映画。蔵原惟繕監督×山田信夫脚本。音楽は黛敏郎。

北海道の北端、稚内。昆布採りで知恵遅れの娘みふねは貧しさから人買いの秋本(アイ・ジョージ)に売られる。しかし途中で逃げ出し汽車に駆け込んだところを、通りすがりのジョー(宍戸錠)から汽車賃を恵んでもらい函館市へ向かう。函館競輪場で予想屋をしているジョーの前に追いかけてきたみふねが現れ。。。

歌謡映画の先入観を覆す力作でかなり楽しめた。冒頭の海岸シーンからモノクロ映像が美しくロケーションも秀逸。60年代初頭の地方競輪場ロケもたまらなく好み。みふねが線路に横たわるショックなシーンをはじめ鉄道周辺の映像も実にシャープだった。秋元の弾き語りと告白シーンはクレーンカメラ9分間の長回しで魅せていて何気に凄いことをやっている。前衛音楽風な黛敏郎の劇伴も相まって後のATG邦画やヨーロッパ映画のようなムードが漂う。

冒頭、昆布を頭に乗せて登場する芦川いづみは、ジブリ・ヒロインのモデルとなった女優のひとり。ジブリでは本作のような弱い女性は登場しないが、この無垢さは思い当たる。

他レビュアーさんが口をそろえるフェリーニ監督「道」(1954)との類似は公開当初から指摘されていた。

※公開当時の白井佳夫の批評
~「野獣のように見えて」にフェリーニの「道」を~「黒い太陽」のプロローグ・ショットにゴダールの「勝手にしやがれ」を演繹してケチをつけることは実はむしろやさしいこと~問題はそんな事ではないのだ~求めなければならないのはその先に広がる新しい道なのである~。

これには全く同意。冒頭シーンは確かに「道」を連想させるが、その後の展開とテーマは似て非なるオリジナリティがある。蔵原監督自身は本作について「日本人の”愛の位置”の確認作業」と語っている。戦後闇市のような函館の市場で握り飯をほおばる芦川いづみの姿は戦争孤児を彷彿とさせる。捨てられ続けた彼女は愛を求めて最果てに消える。リアリズムと幻想が入り混じり難解な口当たりの本作だが、戦後復興と経済成長の中で日本人は何かを裏切っていないか?純粋な魂を失ってはいないか?と問いかけているように感じられた。

※秋元から逃げた女を演じた桂木洋子は黛敏郎の妻。
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