このレビューはネタバレを含みます
傑作というには少しヌルいマルクスだが、何はともあれ三九年の作品、先頃の「捕物帖」に戦争の匂いがこびりついていたのなどと比較すれば、段違いに天下泰平、本格的である。だいいちグルウチョの歩き方からして違う。パリパリしてらあ。
舞台はサアカスという最初の思い付きが先ずイタダける上、それをイキのいいのが三人がかりで、だきしめ、なでまわし、くすぐり、ひっぱたき、ふんずけてハネまわるのだから悪くなりよう筈もなく、ともかくギャグは量だけでも圧倒的。質の点でも今なお新鮮、十二年の年月もこの強烈さには歯が立たなかったとみえる。
チコのピアノ例によって例の如く、グルウチョの「リンダ」また楽しいが、特にハルポはここでもずばぬけて印象的な存在。そのハアプ「ブルウ・ムウン」弾奏に至っては、ただただ息をひそめ舌をまくばかりの至芸。
モット昔はモット面白かったヨとゼイタク御追懐をなさりたい御仁もたしかにござろう。が諸事万端砂を噛むような当節では、結構これでも飛切りの清涼剤だ。
『映画評論 7(6)』