くまちゃん

密告のくまちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

密告(1943年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

とある田舎町。
「カラス」と名乗る人物からの密告文書が町内を騒がせる。標的となったのは医師ジェルマン。
密告によれば彼は精神科医長ヴォルゼの妻ローラと不倫関係にあるという。さらには堕胎手術を請け負っているとも。
内容は事実。
だが匿名の密告者「カラス」とは一体何者なのか?
目的はなんなのか?
数ヶ月で町内に配られた怪文書の数は800通にものぼり、ジェルマンを中心に町中が疑心暗鬼のカオスと化す。

「カラス」の手紙が原因で13床の癌患者フランソワは自殺した。
それにより犯人探しが苛烈しローラの姉マリーに疑いの目が向けられる。
世間の誹謗中傷はマリーの背中へ集中砲火し逮捕へ至るが、彼女は犯人ではない。

気難しそうな紳士を装うジェルマン。
過去に妻と子供を救えなかった引け目がある。女性関係が派手なのは亡くなった妻を愛しているがゆえなのではないか?
妻は愛していた。その他の女性は愛していないからこそライトに関係を持つことができる。子供嫌いも亡くなった我が子を思い出すからかもしれない。
その証左として外で遊んでる子供の声が煩わしいと窓を閉めていたジェルマンが、ラストでは妊娠したドニーズに出産を願い、子供の声が聞こえる窓を開放していたではないか。
一ついえば、ドニーズ、ローラ、ヴォルゼ、周囲の意見に右往左往し、紳士的な外見や佇まいの割には聡明さがない。

今作で描かれているのは匿名性がもつ同調圧力の狂気であり、一種の魔女狩りである。
それはソーシャルメディアが普及した現代の方が残虐性を増し悪意と無責任が増長している。

アンリ・ジョルジュ・クルーゾー。
偉大な映画作家は時代を選ばない。
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