このレビューはネタバレを含みます
「犯罪河岸」「マノン」のH・G・クルウゾが、戦時中ドイツの命令で作られた作品だが、出来上りがナチのお気に召さず、職後まで上映禁止を食っていたという曰くがついている。
小さな村で、誰が書いたとも判らぬ怪文書が飛交い、人々の間に混乱が起るという推理劇めいた物語だが、作品の企画は犯人探しの興味にあるのではなく小さな事件によって広大された人間性の弱点というようなものの研究だから、狙いは可成り高級である。
ちょっと見には、ひどく地味でとっつきが悪いかもしれないがじっくり味うと、かわいた冷たさの中に、人は、つきせぬ人間性格の妙を見るに違いない。クルウゾの演出は、さすがに鋭敏そのものキメの細かさ含蓄の深さという点で、ハイクラスの映画マニアは絶対見逃すことの出来ない一篇である。
『新映画 7(12)』