むぎたそ

豚と軍艦のむぎたそのレビュー・感想・評価

豚と軍艦(1961年製作の映画)
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遠い地で見て、さまざまな感情が湧いた。
いや、この10ヶ月くらいでマジで10
本くらいしか映画見てないからさ、一本一本が本当に濃密に感じられるのよ。
これは日本の過去で未来だ。っていうかさ、貧しくて荒廃した感じも、結局金があるかないかに精神の豊かさとも関係してくるよな、とか、いつまでもどこまでも中身がなく真似してばかりの精神子供国、、そうだよね日本って敗戦国として戦後レジームの中を生きてんだよねとかまざまざと意識させられたりとか、いやー全く古びてない。今の映画だ。(でもさ、いくらでも立て直せたと思うのに、なんで今も国はこんなんなってるんだろ、中世からの精神性が変わらない限りずっとこんななの?)
でさ、戦後の貧しさゆえに、さんざん組織のためとか男を見せろとかさホモソーシャルな全体主義(やくざ組織:アメリカにへーこらする日本の比喩でもある)に屈し続けた長門裕之が最後の最後に個人として抵抗したり吉村実子の軽やかな逃避行とか、まあグッジョブって感じ!安保闘争の時代かー。今村昌平って大学の授業で「人間蒸発」くらいしかみたことなかったんだけど、すごくメッセージ性強いし(アメリカの言いなりになるな、真似ばかりして中身のない日本をやめろ、自分で考えろ)、映像表現も凝ってて(面白映像表現がいっぱいだ)、いやあ、映画って本当によいものですねえ、ってなったよ。映像表現はいろいろあざといけど、いろいろ面白かった。豚がコメディ要素としても風刺要素としても使われたり、ガンアクションやったり、金と愛する長門のために意を決してアメちゃんのもとに体を売りに行った吉村を上からベッドを俯瞰した画面がぐるぐるまわったり、死体がいつのまにか骸骨になったり(ひえー)。
戦争をマジで経験してる世代がつくってる映画にただよう血とか肉体とか暴力とかは、戦争を体験してない世代がつくるものとは違う感はやっぱりあるな。。今村昌平あんま見たことないから他のもみてみようかな!いま話題の役所が出てる「うなぎ」とか?「戦メリ」が話題の年に「楢山節考」がカンヌグランプリだっけ?

ちなみに、これは、今滞在してるNZの街ネルソンのシネマソサエティが毎週火曜に世界中のクラシックな名作を上映するっていうイベントの一環でみたのよ。今年度のジャパン映画は「東京流れ者」(鈴木清順)と今作らしい。1本だけでよかったけど、3本からのチケットなので(3films sampler $35)あと2本は見なきゃなー。タクシー・ドライバーとかビリー・ワイルダーとかもやるみたい。ま、別の国の映画、適当に選ぶのでもいいかな。
来てる観客は地元のカルチャー好きそうな60〜70代のじいばあばかり(運営もボランティアかな?まあ、同じような映画ラインナップでオークランドでもやってるようだったから、国をあげての活動?同じフィルムが全国をまわる的な?知らんけど)、だけどオタクっぽい若者もちらほらという感じ。あーこの感じは、ラピュタ阿佐ヶ谷や神保町シアター?いや、それよりも、市民活動っぽさがすごくあり、市のオシャレなアートギャラリー(なんか半分くらい公立なのかな?)の併設の映画館(地下)でやっていて、三鷹市芸術文化センターの月一回の古典映画(だいたい1930〜1960年くらいの邦画)の上映会を思い出したであります。なんかワインとかスナックとかも売ってて交流の場にもなりそうね。映画見終わって、戦勝国側の欧米の人はどう見たか気になるし、感想とか聞きたかったし言いたかったけど、英語力不安だし、それよりひとりフラット(シェアハウス)への帰り道で映画の余韻に浸るひとときを大事にしたかったから、委員っぽい婆と爺数人に、「ワタシ、ニホンのユニバーシティでスタディーした、フィルムスタディーズやフィルムメイキングを。イマムラ知ってたけど、これみるのはハジメテ。ナイスオポチュニティー。だから、トゥデイはほんとうにインジョイした、ありがとう」的なことだけ言って、会場をあとにしたよ。なんか、本作上映前に地元の学生が作った?短編映画が上映されて、それに会場の観客複数人からコメントがあったり、今村の時代や作品を説明するMCぽい高齢白人女性(キュレーター?プログラムディレクター?)が1960年ごろの日本のスタジオシステムの崩壊について簡潔に述べたりしており(それでみんな制作背景が理解できるなら)よう知らんがなんとなく観客のリテラシーも高そうでした。まあ、どの国もさ、映画館で映画をみるのを楽しんでた黄金世代は老人だよなあ。ここも例外ではなく。映画見終わったあと、アンケート?星取表みたいのあって、ちょっと面白かった。結果はどこで見られるんだろう。

オキュパイドジャパン、占領されてた時代、貧しさからくるあれこれ(会話や行動の選択等)、あんまり笑えない感じもして、どこらへんが喜劇なんだろう、とか思ったが、まあふつうに喜劇だった。悲喜劇ってやつね。仁義なき戦いもそうだしなー。個人の話じゃなくもっと大きなテーマだよっていう見せ方も好き。ま、世界的な映画史に残るゆえんではあるな。
ガンアクションあり、カーチェイスあり、コメディあり(担当:丹羽哲郎/死ぬ死ぬ詐欺)、エロあり(ってもさ、戦後の日本人が欧米人を真似して、キスとかいろいろやってる、慣れてなさみたいのが出てる)てんこもり〜。風刺が効いてるし、カタルシスもあるし(アクションもだし、吉村実子の表情と叫びはほんと痛切だったな、最後バカやろーって誰に言ったんだろ、長門にだけじゃなく、社会にかな)、映画としてもかなり面白かった。吉村じつこってあんまり顔好きじゃなかったけど、彼女だからこその生き生きとした力強くユニークな表情がよかった気がする。ビンボーくささ、反抗する顔。ザ美人がやってないのがいいのかも、こういう役。実際の長門裕之の妻南田洋子とか美人なんだけど、あんまり目立たないのがよかった気が。菅井きんは30代なのにババくささほんとにスゴイねえ、でもまだ10代の娘がいる母なら、30代後半とかでも、実際おかしくないのかもな。殿山泰司が変な中国人だったり、アニキの丹羽哲郎や加藤武や小沢昭一やら脇役ヤクザたちのお笑いキャラぶりもよかったね。人間のエネルギーはすごいな。死にそうな人が死なない、死にたくない人が死ぬ、死が笑いを交えて、日常的にあるものとして描かれてるし、当然、逆説的に、生もある!!!全体テーマとしては、変わらず日本社会に対して憂鬱になんだけど、個別のキャラクターたちの生き物としての力強さがよかったな。

まあ、世界中の映画制作者のお手本的なものにされるのはわかる感じしたわ。

1961年につくられたんだっけ?横須賀が舞台ですごいちゃんと外でロケ撮影してる感じでスペクタクルだし、長門裕之がマジもんのスカジャンを着てた。浦山桐郎が助監督らしい、豚のシーン、いったい何テイクくらい撮ったんだろう、と気になった。めっちゃ何回もリハーサルして一発撮りかな?ああいうシーンがうまくいくには助監督の手腕にかかってるだろうから。

あ!パイナップルの缶詰が小道具として「恋する惑星」よりも断然美味しそうに使われてたよ。「おもひでぽろぽろ」などをみてもわかるが、ある時代までは、パイナップルの缶詰は高級品で、庶民は特別な時にしか食べてなかったはず。この映画でも、たのしくておかしくてかなしい、みたいな時に、主人公カップルが食べます。

インターナショナル!っていう悪口、かなり新鮮だったな。
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