菩薩

恋文の菩薩のレビュー・感想・評価

恋文(1985年製作の映画)
4.4
同じ男を愛してしまった女同士の百合と言う壮絶な展開に開いた口が塞がらないが、何が一番残酷かと言えば幼き息子がこの身勝手な大人達の文字通りの「傍観者」となり、輪にも入れずひたすら一部始終を見せつけられる事だろう、彼だけは結婚式でも祝福の手を鳴らさない。知らない女から父への恋文を発見してしまったのは彼であるが、母から父の手に「恋文」が渡った事などおそらく知る由も無く、一度は近づいたにも関わらず永遠に遠ざかる事を決意した父の足音を聴く事となる。誰かにとっての優しさは同時に誰かにとっての冷徹さとなり、誠実さは不誠実となる。永遠の愛を手にしても保持していられる時間がもはや無い女と、失った物を取り戻す時間はあると信じていたがもう取り戻せない事を悟ってしまった女、あんなにも悲しい「綺麗よ」を俺は聞いた事が無い。なんせショーケンが本当に凄い、君を愛している、けれどあいつに本気で惚れている、こんな事を言って「何言ってんの?」とならないのはショーケンくらいなのでは…。離れたくても離れられない女、帰りたくても帰れない男、コマは遂に回転を止め、父のいない部屋の中で母と息子は泣き崩れ、明日への決意を新たにする。夫は泣きながら笑う、画用紙の中の妻は笑っていない、窓の絵は消えずに残っている。
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