ケーティー

ひばりの子守唄のケーティーのレビュー・感想・評価

ひばりの子守唄(1951年製作の映画)
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「ふたりのロッテ」の美空ひばり版。大映映画らしい大らかさと昔の濃い脇役陣が印象的。


全体で84分と短めだが、話として必要なところは押さえている。美空ひばりさんが双子の姉妹を一人二役でこなすのだが、モノクロで髪形意外違いがないためか、冒頭でどちらがどちらか見分けてくださいねとアナウンスする。
原作では、片方が田舎で父と暮らし、もう片方が都会で母と暮らす。しかし、今回は美空ひばりさんが主演なので、父は山の手に暮らす音楽家、母は下町に暮らす商売屋に変わっている。

昔の大映映画らしいよくも悪くも大味なつくりなのだが、下町のご近所さんがなかなか濃くて、味のある脇役が揃っている。

まず、杉狂児さんの女みたいなお菓子屋の怪演ぶり。この濃さはなかなかすごい。ゲイではないのだが、主人公とその母親にまとわりつく様子は、往年の喜劇役者の濃さや底力をみせる。モノクロなこともあり、衣装や髪形は個性的ではなくむしろ普通で、完全に演技だけでみせている。この濃さを出せる人は、今なかなかいないだろう。特に家から追い出されるシーンなど、今まで集めたキャラメルの使い方の面白さもあって、楽しい。
また、床屋を演じる潮万太郎さんのおかしさも格別。登場シーンからのどもり具合や、ラジオの曲にノリノリで顔剃りするシーンなどいい。
そして、何と父親を説得するのが、棟梁役の古今亭志ん生師匠。行き違いで、母親の家に来てしまった主人公の父親に、留守役の棟梁がこんこんと愛や人情を説くシーンは、内容そのものは大したことなくとも、その語り口調だけで味のあるシーンになっている。これは志ん生師匠のなせる芸の技であり、始めはなんでこんな端役にこの人がと思わせて、ここで見せ場を作っていてなるほどと思った。
その他、魚屋など多彩な近所の人が出てきてよく、なぜか父親の家にみんなで行くシーンなど、昔ならあったのかもしれないが、おかしい。

その他、細かな設定で今の映画にはない面白さだなと感じた点が3つあった。

(1)キャンプでの歌の吹き替え。
双子の姉妹が一番初めに入れ替わるとき、片方が口パクし、片方が思いっきりみんなの見える前で変わりに歌うという謎シーン。今なら絶対バレるだろと没になりそうなアイデアだが、これをやりきってしまう潔さを感じた。初め口パクがばれないように口元を隠す姿がシュールだった。
(2)犬のバフを付いてくるわよと言って、置いていく。
愛犬バフと主人公が近所の公園で散歩していると、家の近くまで車で来た父の恋人が、せっかくだから乗っていきなさいと主人公に声かける。犬はどうするんだと思ったら、恋人は何と「勝手に着いてくるでしょ」と放し飼いに。結果、主人公は車に乗り込み、犬は本当に車を追いかけてくる。公園で犬を放し飼いにするという奔放さに驚いた。
(3)走り縄跳びで橋まで行く。
入れ替わった双子の姉妹が町の入口の橋にいると知った主人公が、その橋に嬉しくて橋って向かう。と思ったら、ただ走るのではなく、走り縄跳びで
わざわざ移動するのである。普通だったら走らせるところも、何としてもワンアイディアのせようとする当時のスタッフの心意気を感じた。ちなみに、このシーン以外で主人公は、縄跳びはしていない。