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オルランドのmoのレビュー・感想・評価

オルランド(1992年製作の映画)
5.0

「わたしは男でもなく、女でもなく、ひとりに溶け合った。地球にもいて、同時に宇宙にも存在する。この世に生まれ、同時に死を迎えている」

男性から女性へと不思議な変身を遂げ、400年という悠久の時を生きるエリザベス朝の貴族オルランド。
まだ30そこそこのティルダ・スウィントンの両性具有の美しさを惜しみなく詰め込んだ一作。

冷たさを感じさせる容姿に反して情熱的で、詩を愛し、どの時代・どの性を生きても気品に満ちた佇まい。まるで彼女のために作られた物語と言わんばかりに、オルランドの人物像はティルダ本人にピッタリと当てはまっている。

この作品だけでなく、ティルダといえば『コンスタンティン』の天使ガブリエルや『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』の吸血鬼、『ナルニア』シリーズの白い魔女など、浮世離れした美しさが際立つ人外の役を多くこなしてきたイメージだが、実は彼女の武器は美しさだけではない。

『スノーピアサー』や『グランド・ブタペスト・ホテル』、『サスペリア』では特殊メイクを施し、素顔からは全く想像できない醜い姿でファンを驚かせたりもしている。

だが、どんな役を演じても、どこか独特なオーラと気品が漂うのがティルダ流。もはや言葉では形容し難い、唯一無二の存在感こそ彼女の最大の武器である。

2021年にクィアであることを公言したティルダ。自身がクィアであることを自覚するきっかけとなった作品がまさに本作『オルランド』であり、彼女はこう語ったという。

「オルランドは、男性と女性の間を自由に行き来する存在です。この役を演じた時、私自身の在り方にしっくりくるものがありました。というのも、私には、そもそもジェンダーアイデンティティというものが存在するのかどうかもわからないからです。ジェンダーが流動的な役柄を演じる際に感じることがあります。母親は、母親の顔しか持つことができないのでしょうか?幾つもの顔を持つことはアイデンティティとは見なされないのでしょうか? “変身”こそ、表現者としての自分の核の部分です」

多様性や男女平等、格差是正を謳う裏側でみんなが枠を意識せざるを得ないこんな時代だからこそ、何にも縛られないオルランドやティルダの自由な精神はより一層、より強く輝きを放つ。真の自由とは、まず世界から自分を切り離し、ありのままの自分を受け入れることから始まるのだと彼らは気付かせてくれる。
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