ちろる

君は裸足の神を見たかのちろるのレビュー・感想・評価

君は裸足の神を見たか(1986年製作の映画)
3.7

巨匠今村昌平監督総指揮で作られた新人金秀吉監督によるATG作品。

舞台は、秋田の角館。
そこで暮らす2人の高校生の友情と恋を切なく見せる青春ストーリー。

自転車の二つの輪のように、共に回ってきた2人。
シゲルとシンジ、強固な友情がのちに互いを苦しめることになる。

シンジはひとみが好きで、親友のシゲルはそれを応援する。
しかしひとみは幼い頃からシゲルが好き。
このひとみの想いがつくられる行程が実に生々しい。
ある日の帰り道、突然の初潮をシゲル目撃されたひとみはその時からずっとシゲルを想い、処女を奪われたい願っていたのだ。

シゲルにはハルヨという憧れの美女がいるがなかなか声がかけられず、くすぶっていた。
そして思春期の不安定さとどうしようもない衝動は残酷で、物事の整合性を打ち砕く時がある。
シゲルはひとみの願うままひとみの処女を奪い、そこからシンジには内緒でセフレのようなズルズルとした関係性に至る。

何も知らないでひとみと近づいていくシンジ、しかし友に裏切られた時、隠喩的に愛猫も行方不明になっていき、シゲルの不幸へのカウントダウンは音もなく始まっていた。

ひとみ役の洞口依子さんがこの物語で演じるのは、絶対的なファムファタールではなく、純朴さと、小悪魔を交互に醸し出す不安定さが印象的だった。
ひとみの未熟さもまた、シゲルを追い詰める一手となったのだが、これは誰もが思春期に陥る可能性のあるものであり、そうと分かるからゾッとする。

目標のない、曖昧な愛の形を持て余す若き時代、孤独や不安を空虚な何かで埋めつつ、徐々に大人になるしかない。
そしてこれは、残酷だけど間違いなくまっすぐな青春映画。

ストーリー自体は胸を打たないが、いかつかのシークエンスに心が揺さぶられる、不思議な作品であった。
ちろる

ちろる