オトマイム

美しきセルジュのオトマイムのレビュー・感想・評価

美しきセルジュ(1957年製作の映画)
4.0
これまでシャブロルを数本観たのだけれどどうにもつかみ所がなく、初期の代表作といわれる『いとこ同士』にいたってはまったくというほどはまれなかった。だけどこのデビュー作は観なければと思っていた。ヌーヴェルヴァーグを先頭立って道筋をつけたのはカイエ派初の長編=本作を撮ったシャブロルだから。

まず、素直な感想。シャブロルの中ではいちばん好き。完成度が高く円熟味ある『沈黙の女』も好きだけれどそれとはまったく異なる魅力がある。ぎこちなさは若干感じられるものの、逆にほどよい硬質さと緊張感が全体に張り巡らされ心地よい。(私は彼の作品に多くみられる柔らかさ→グダグタ感?が何となく苦手だ)。キャスティングも魅力。不良少女モニカを思わせる眼光鋭いベルナデット・ラフォンがすばらしい。ジャック・リヴェットという役名のフィリップ・ド・ブロカがチョイ役で登場する等の遊び心も。

オーバーラップが印象的なモノクローム。アンリ・ドカによるカメラが映しだすのはフランスの田舎、それも風光明媚でも、とりわけ生産性豊かでもない田舎であり、なんの変哲もない閉鎖的なそれである。本作を観てこの土地をぜひとも訪れたいと憧れる人は少ないだろう。けれどもこれもまたフランスの一面。誰もが憧れるパリを主たる舞台にしたその後のヌーヴェルヴァーグとはひと味違う。
冬の淡い光に包まれた屋外の描写や、自然光の輝きと人物の内面とを一瞬にしてシンクロさせ閉じ込めたようなクローズアップのショットなどはたいへん魅力的で、メルヴィルの初期作品や『シベールの日曜日』に思いを馳せた。

かつて美しく輝いていたセルジュは今は美しくないというタイトルのアイロニー。登場シーンで振り向いたセルジュの表情は虚ろで切なく、ラストショットとの対比が見事だと思う。狭い社会での惰性的な生活。寂れた田舎町の厳しい冬。これまで自分が持っていたヌーヴェルヴァーグのイメージとはすこし異なるリアリズムを感じた。
『いとこ同士』も本作とコインの裏表の作品と考えるととても素敵な映画に思えたのが不思議。