Jeffrey

戦争のない20日間のJeffreyのレビュー・感想・評価

戦争のない20日間(1976年製作の映画)
3.8
‪「戦争のない20日間」‬

‪冒頭、冬の海に兵士達が休息する。
空爆、従軍記者の男、戦友の姿、妻との離婚、恋愛、疎開地タシケント。出会いと別れ、聴衆の前での大演説。今、アジアの寒い国でロマンスが始まる…本作は1977年ジョルジョ・サドゥール賞受賞したアレクセイ・ゲルマン監督の傑作と評価された作品で、原作はシーモノフの「ロパーチンの手帳より」である。

この度、初鑑賞したが素晴らしい。
本作は戦前のタルコフスキーが唯一ゲルマンの作品で見たとされているのが本作だそうだ。そしてとあるシークエンスに彼は大絶賛をしたとのこと。

主人公演じたユーリー・ニクーリンはソ連時代を代表するサーカス芸人であり喜劇俳優との事で当時人気女優だったリュドミーラ・グルチェンコ演じる女優と遠く離れた中央アジアで惹かれ合う男女を演じている。これが素晴らしかった。

本作は冒頭から見入ってしまう美しい冬の海のシークエンスから始まり、若い兵士が砂浜に座り込みそれを映す。

続いて一人称で出来事が語られ、不意に空襲と叫ぶ1人の兵士の声とともに戦闘機が複数現れ爆撃をする。

続く波に打ち上げられた死体、機関車のショット、車内でのそれぞれの会話、、廃墟と化した建物の景観、そこで写真撮影する人々、そして空爆…と一連の流れがすごく印象的だ。

終盤の爆撃の後のベルリンまでの道のりは遥か先だと言う言葉で締めくくられるのはとても心に残る。

さて、物語は20日間の休暇を得て銃後の街を歩いてタシケントへ向かう従軍作家ロパーチン。いくつかの目的を果たしてニーナと言う女性と親密になっていく。だが、現実はそう甘くなく、前線に戻らなければいけない事になる。

そしてそのロマンスは徐々に失っていく…と説明するとそんな感じで、戦時中の中の出会いと別れを淡々と描いたゲルマンの傑作である。

余談だが本作の中で俳優たちが着ている戦時中の服はタシケントの新聞やレニングラードのラジオで呼びかけ、それらを保持している家庭から安く譲ってもらった貴重な品々であるとのこと。

これを聞くだけでもゲルマンが映画作りに対して一切の妥協を許さなかった事がわかる。

もっと言うとソ連映画のセット撮影が中心だった時代に、彼はわざわざカザフスタンまで列車を走らせて撮影して、その中央アジア内陸部の冬の寒さをスタッフに味わわせて、半ば恨みを買われていたそうだ。すごい話である。

今では人権と言う名のもとにこんな事、中々できないであろう…それにしても戦争を体験していない彼がここまで戦争映画を撮影できた事に驚かされる。

もちろん彼が1938年生まれと言うことで第二次世界大戦を子供の時代は経験しているが、ほとんど記憶にないだろう。本作はゲルマンの作品の中でも傑作の地位にある。

まだ未見の方はお勧めします。‬
Jeffrey

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