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男はつらいよ ぼくの伯父さんのbluetokyoのレビュー・感想・評価

3.3
いよいよ満男くんがメインになってくる。だが、寅さんの流れもあるし。この二つの流れがうまく接合しているのか、というと、あんまし、うまくいっているとは思えない。前回までの寅さんがメインのときは、かなり、うまくいっていたのに。なかなか、難しいものだ。俳優さん自身も年齢を重ねているので、満男くんがメインにならないと仕方がないのだが。

簡単にあらすじ。
満男くんは大学受験に落っこちて浪人生である。だが、あまり勉強に身が入らずに旅行に行くことを考えている。自宅からは、予備校までバイクで通学している。ちょっと甘いような気もするなあ。バイトで頭金ぐらいは貯めたのだろうとは思うけど、バイトをする暇があったら勉強しろ、とはならないのだろうか。あるいは、両親に借金(踏み倒す気満々)という感じだろうか。
バイクをめぐっては、父親の博さんと取っ組み合いになったとか、後の方でセリフにあるが、どうなんだろう。

予備校は代々木まで行っているので代ゼミだろうな。予備校に行っているというのは賢明だ。満男くん、人付き合いは広くはないけど、そんなに狭くもなく、友人同士で受験勉強というのはいいことだ。次作になるが、これでちゃんと大学に受かってしまうのだから(どの学部なんだろうか)、それなりに頭はいいみたい。

で、問題なのは、満男くんとさくらさん、顔を合わせるたびに口喧嘩をしてしまう。満男くんがイライラしているからなのだが。難しい年ごろなのだ。さくらさん、満男くんが恋をしているのでは、と思い付く。

ちょうどそこへ、寅さんが帰ってきた。ちなみに、寅さん、この年以降、初夏、6月ころにとらやに帰ってくることはなくなった。やはり、柴又まで帰るのは、金銭的にも体力的に厳しいことなのかもしれない。

博さん、さくらさんは、寅さんに、満男くんの悩みを聞いてやってくれと頼む。ということで、寅さんは、満男くんと、どぜう屋に繰り出す。

夜遅く、べろべろになって帰ってきた、寅さんと満男くん。博さんは、堪忍袋の緒が切れて、思わず、満男くんをひっぱたいてしまう。
ここらへんの、満男くんのストーリーはいいのだけど。

寅さんは、また、反省して旅に出る。満男くんも書置きを残して、初恋の人、及川泉さんの家を目指して旅に出る。

及川泉さんは、佐賀にいるわけだが、満男くんは、佐賀まで辿り着くわけだ。だが、佐賀まで行った割りには、まったく、ロードムービーにはなっていない。残念というか、何らかの理由で出来なかったのだろうとは思う。後になって、「十五才 学校IV」というロードムービーの傑作を生みだすのだが、山田洋次監督としては、本当は、「十五才 学校IV」のようなロードムービーにしたかったということかもしれない。

首尾よく、満男くんは泉さんに出会えるわけだが、じゃあ、がんばってね、と帰りかけて、いや、そうじゃない、と思い悩むことになる。これでは、たんなる、いい人で終わってしまう。ようは、付き合ってくれ、恋人になってくれ、そう言うために、わざわざ佐賀くんだりまでバイクでやって来たのだ。

ということで、思い悩みながら、ある旅館に泊まるのだが、なんと、その旅館には、偶然にも寅さんがいたのだ。ここはいいシーンだった。寅さんがいてほっとした気持ちがよく出ていた。
だが、この先がダメなのだ。なにも考えていなかったとしか思えない。

満男くんは、寅さんを後ろ盾にして、再度、泉さんがいる家を訪問する。首尾よく、バイクでデートしたりする。泉さんは、叔父夫婦に、一時的に預けられているらしいのだが。
なにごともなければ、というより、結局、最後まで、なにごともないのだが、叔父さんが、以下のように、満男くんに苦言を呈する。

受験をひかえたいまごろ、バイクで九州旅行するぐらいなら、よっぽど秀才なんだろ。偏差値は80くらいあるのかな。

よく言ってくれた、という感じだよな。普通は、こんな当たり前のことであっても他人事なので、言わないものだ。この叔父さんという人は、高校教師なので、敢えて言ったのだろう。(ちなみに、満男くんが佐賀に行ったのが、1989年。受験は1990年である。共通一次試験がセンター試験になった年だ。それほど裕福だとは思えないので、国公立を目指したはずだ。とすると、センター試験は、1990年1月半ばである。満男くんが、佐賀に行ったのは、10月22日(日)の2、3日前と思われる。それにしても、イチョウの落葉が見られるので、撮影は11月半ばなのだろうか)

泉さんにしても、なぜ、満男くんとのデートを断らなかったのだろう。受験が終わったら、また、来てね、で、いいと思うけど。叔父夫婦の家で肩身の狭い寂しい思いをしていることはわかるけど。

泉さんの叔父さんは、寅さんにも以下のように苦言を呈する。
保護者の私たちになんの連絡もなく、バイクで突然来られたりするのは迷惑です。満男君の将来のために敢えてきつく言いました。二度とこういうことが起こらないように指導してください。

それに対して寅さんは、以下のように答える。
私は満男が間違ったことをしていないと思います。さみしい思いをしている泉さんをなぐさめようとして、やって来た満男を、私はむしろ褒めてやりたいと思います。

叔父さんはそれを聞いて、思想の違いですね、と言うと、奥に引っ込んでしまった。
こりゃあ、まともに相手にしてもダメな人間だと、わかったのだろう。
いいこと言ったな、オレ、と思っている寅さんも、まったく相手にされなかったので、ちょっと狼狽している。

だが、泉さんの叔母さん、寿子さんは、以下のように言って寅さんを慰めるのだった。
ごめんなさい、悪い人じゃないんですけど、心が狭まいというか、若い人の気持ちがわかってあげられないんです。

寿子さんは、寅さんの正体を見破れない愚かな女性である。演じているのは、檀ふみさん。やはり、聡明な女性は、愚かな女性を演じられるということか。檀ふみさんは、寅次郎純情詩集にも出演していたがマドンナではない。

満男くんに、せっかくだけど、早く帰った方がいい。受験が終わったら、また、遊びにいらっしゃい、と、本来なら言うべきなんだが。

寿子さん、寅さんの旅人生を聞くと、わー、わたしも、そんな旅がしてみたいわー、と憧れてしまう。

寅さんの旅がいかに孤絶した厳しく寂しいものなのか、愚かな寿子さんにはわからないのである。

ということで、満男くんは、柴又へ無事帰り、寅さんは、そのまま、寂しい旅に出るのだ。
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