odyss

あの日 あの時 愛の記憶のodyssのレビュー・感想・評価

あの日 あの時 愛の記憶(2011年製作の映画)
4.0
【ナチものの佳作がまた一つ】

ナチもの映画にはずれなし、というのが私の作った名言(笑)だけど、この映画もこの名言どおりの佳作になっています。

ナチ・ドイツ侵攻後のポーランドで、抵抗運動をしたために補えられていた若い男と、ユダヤ人であるがゆえに捕えられていた若い女が収容所で出会い、恋をする。そして二人で決死の逃避行を行う、という物語です。

その部分もそれなりに迫力がありますが、そのあと、何とか男の実家にたどりついた二人に、男の母親はユダヤ女性との結婚を許さないと言う。この辺、歴史的事実に照らしてもよく出来ていますね。ユダヤ人を差別したのはナチ・ドイツだけでない。ポーランド人だって同じだったからです。

また、男の兄がソ連軍に連行されてしまうシーンもありますが、そもそも、ナチ・ドイツとソ連は独ソ不可侵条約を結んだ後、秘密協定に基づいてほぼ同時にポーランドに侵攻し、二分割して支配していたわけです。だからポーランドの抵抗運動もドイツに対してだけではなくソ連に対しても行われていたわけですね。ドイツとソ連というと、第二次世界大戦では枢軸国と連合国に分かれていたから敵同士ではあるのですが、ポーランドにとってはどちらも同じ穴のムジナでしかなかったのです。

また、二人は結局その後会えずに、それぞれ別の異性と家庭を作ります。男はポーランドに住み続けるのですが、その娘が教科書の記述について父に訴えるシーンがあります。戦後ソ連の衛星国となったポーランドは、歴史の教科書ではソ連に不利な記述はできなかったし、またポーランド独自の民族意識につながるような記述にも圧力がかかっていたということが分かるシーンですね。

この映画は、アメリカに渡って家庭を築いた女がテレビで昔の恋人を偶然見て、そして・・・というふうに構成されています。第二次世界大戦が終わってからすでに半世紀以上たち、いわば立体的な物語が作られるようになったとも言えますし、またこれは実話に基づいているそうですから、そうした立体的な構図が時代の経過により明らかになってきたのだとも言えるでしょう。

惜しいと思うのは、昔の恋人をテレビで見て動揺している女に対して夫が気遣いを見せているのに、女の側がかなり突っ慳貪な態度をとっていること。女の性格に観客が疑問を抱いてしまう箇所だと思います。
odyss

odyss