高円寺ぱか

南極料理人の高円寺ぱかのネタバレレビュー・内容・結末

南極料理人(2009年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

ラスト30分の巧さがほんとにえげつない。

・全員が少しずつ限界を迎え、騒動に巻き込まれ娘の乳歯を喪った西村の、直後の唐揚げのシーンが巧い。西村の限界が、唐揚げのべちょっと感によってピークを迎え、涙を流す。ここで唐揚げが出てくること自体、必然性もなく、実質的でもない、取るに足らないことだし、実際その通りなのに、西村が泣く気持ちがすんなり入ってくる。劇的ではないのに劇的なことを語りによって生む。

・そしてその直後の中継のシーンはすごい。あまりにもすごい。娘と知らず本音で語る西村の「おいしいものを食べたらみんな幸せになる」の響きは空虚から程遠い。それは堺雅人のポロッと出たという演技もあり、「娘と知らず」という条件もあり、限界状況で職業意識を拠り所に生きてきた西村が発したからこそでもあり。

・ラーメンのシーンもいい。ここまできたら完璧に誰もが理解できると思うのだけれど、西村は善人だからみんなのために働いているわけではなく、死滅した世界において職分を全うすることによって正気を保っているのだ。だから西村がラーメンを作るのは、隊長のためであると同時に、自分のためである。だからこんなにも気持ちいい。

・全員が集まって食事するシーンからのフェードアウトも、塩梅のはかりかたが凄まじくて鳥肌もの。ここで役者が歩み寄って半分タメ口になっているところとか、完全に確信をもって演出されているのだと思うが、ちょっと前まで帰りたい気持ちに感情移入していたはずなのに、もう帰りたくない、寂しいに振り切れる…

・ラストシーンの「うまっ」は理想的に洒脱。

あと高良健吾ってほんとに擬態するよなあ。