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Devotion 小川紳介と生きた人々の一のレビュー・感想・評価

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いやー素晴らしい。バーバラ・ハマーが小川紳介のドキュメンタリーを撮るってどういうことなのかと思ったが、佐藤真が“小川的家父長制”と表現した共同体としての小川プロが、まさにそのような抑圧の上に成り立つ集団であったという事実を、当事者へのインタビューを基に炙り出していく大変刺激的な作品。先日のアテネ・フランセでのシンポジウムにおいても“借金返さない”とか“やりがい搾取”とかいう不穏な発言は出ていたが、当時の現場スタッフの証言は、小川個人/小川プロへの愛憎が入り交じりながらも驚くほど批評的である。特に女性メンバーの口から語られる小川プロにおけるジェンダーロールのあり方は、古今様々な社会運動においても同じような事態は起こっているのであり意外でも何でもないのだが、やはりショッキングだし、反対闘争によって家庭から解放されたと語る三里塚の女性農民の姿とは対照的だろう。ある女性メンバーは、小川プロから脱するために妊娠・出産することを思いつき実行したとまで語る。この歪な転倒。映画作りの名の下に共同体の内部で誰がどのように踏みつけられていたのかを暴き、更にはセックス、ホモソーシャリティ、小川紳介という人間の虚飾性(経歴詐称)、当事者がチャールズ・マンソンやオウム真理教の名を持ち出して語る一種の宗教性にも踏み込んでいくハマーの視点は流石の一言に尽きる。
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