こたつむり

憲兵とバラバラ死美人のこたつむりのレビュー・感想・評価

憲兵とバラバラ死美人(1957年製作の映画)
3.8
♪ 瞳開けたまま 腐食してゆく身体
  あざやかに失われる
  この意識だけを残して

うはは。これは地味に良作。
昭和32年の作品なので白黒だし、当時の演出や女優さんの話し方には違和感があるし…と鑑賞する前の敷居は高かったのですが、偏見で避けずに正解でした。

物語としては「昭和12年。憲兵隊が使う井戸の中からバラバラにされた死体の一部が見つかった。警察が捜査に乗り出すが、憲兵隊の強権的な態度の前に断念せざるを得なかった…」というサスペンス。

何よりもテンポが良いのですよ。
上映時間は80分未満ですからね。
しかも、その短い尺にロマンスやコメディも入れていますし、感情を阻害しない流れで捜査を進めるので密度が濃いのです。

また、軍の中の対立や警察との関係も物語を引き締めるポイント。憲兵と聴けば“嗜虐的な拷問”も連想しますが、バッチリと押さえていますからね。全方位に隙がありません。

主人公を演じたのは中山昭二さん。
『ウルトラセブン』の《キリヤマ隊長》ですね。これは、ウルトラ世代ならば見逃せない配役。鋭くも温かみのある眼差しを本作でも伺うことが出来ます。

また、脇を固めるところに天地茂さん。
のちに《明智小五郎》を演じる御方が“容疑者”となるのも見逃せない配置です。いやぁ。存在感が違いますね。若い頃から目力があったのですな。

ただ、当たり前の話ですが、現在の視点で鑑賞すると物足りなさも感じます。特殊効果やアクションは目を瞑ることが出来たとしても、杜撰な犯行や技術力を感じない捜査は肩が下がるばかり。

でも、舞台設定は昭和12年ですからね。
全体的に大戦に向かってひた走っていた時代なので、組織的な捜査に期待できなくても当然ですし、科学捜査が確立していない頃に“歯型の照合”を持ち出したのは健闘したほうじゃないでしょうか。

まあ、そんなわけで。
昭和独特のテンポが気持ち良い作品。
最近は各方面への配慮ばかりが積み重なり、鈍重な作品が多いと思うので、たまにはこういうシンプルな物語も良いですね。昭和の雰囲気に抵抗がない人に全力でおススメしたい作品です。
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