せみ多論

初恋のきた道のせみ多論のレビュー・感想・評価

初恋のきた道(1999年製作の映画)
4.0
チャン・ツィイーの表情が本当に良かった。

物語は田舎の村を出て町で働く男性の視点から描かれているが、メインは男性の両親の出会いのお話。

男性の父親が亡くなり、数年ぶりに村に帰ると悲しみにくれる母の姿。そこで舞台は現在から40年遡り、若き日の両親の物語が始まる。

現在以上に未開発の状態であった村に、初めて学校ができることになり、そこの教員として男性が赴任してくる。その彼に一目ぼれする若き日の母を演ずるのが、チャン・ツィイーこの人。本作が映画初出演の初主演だったそうですが、村の純朴で、世間知らずで、一途で、ちょっぴりわがままな少女の役が本当にうまい。

大好きなのに声をかけられず、遠巻きに追いかけたり、こそこそ陰から覗き見たり、どんくさい感じの走り方や、ちょっと挨拶をしただけでウキウキしてる表情、凄く豊かな演技だったと思う。

父の若いころの役者さんがあまり美男子ではないところも何かリアリティがあった。田舎の未開発地域であるからか、見た目ではなく、ハイソというか知的な雰囲気に惚れてしまったんだろうなというところ、彼女は純粋な憧れのような恋心を抱いたのではと印象に残った。

また現在がモノクロ、過去がカラーという手法も印象的だった。
自分としては、夫のいなくなった現在は色を失い、あの頃の思い出だけがいつまでも色あせず残っているということなのかと思ったが、ちょっと欲を言えば、男性つまりチャンの息子さんが最後に村でわずかな時間ではあるが授業を行ったシーン、あそこだけは現在のシーンで唯一カラーで表現したら面白かったんじゃないかなと感じた。

タイトルの意味も話の展開とともにわかるようにできています。素晴らしい邦題だと思います。詩的で切なさを感じさせながら観るものを惹きつける、本当に素敵としか言えない。

中盤くらいから自分は劇中のチャンを見ていて何故か泣けてきてしまった。不器用で一途な姿が、しかも人間臭く描かれているのが何だか嬉しかったのかもしれない。

また、いつか見たいと思います。
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