がちゃん

楢山節考のがちゃんのレビュー・感想・評価

楢山節考(1983年製作の映画)
3.7
1983年。
『戦場のメリークリスマス』と本作の2本が、日本映画としてカンヌ国際映画祭に出品され、大方の予想を覆して、本作がパルムドールを受賞しました。

奥深い山奥の山村。
自然信仰に基づくであろう古からのしきたりにより、齢70を迎えた老人は『楢山参り』に出なければならないという掟があった。

『楢山参り』とは、とは姥捨てのことであり、その日が来たら自分が母を背負って山に捨てに行かないといけないということだった。

辰平(緒形拳)の母、おりん(坂本スミ子)は69歳。この冬にも『楢山参り』を迎える年だ。

しかし、彼女は、例えば歯は33本残っているし、野良仕事もバリバリとこなしている。

この村には、これ以外にも、「結婚し、子孫を残せるのは長男だけである」「他家から食料を盗むのは重罪である」という掟があり、特に食料に関して掟を破ると、村から完全に消されてしまう。

また、貧しいこの村の次男坊として生まれた子は、一生奴(ヤッコ・下人)として飼い殺しにされる運命だった。

だから、おりんの次男で辰平の弟である利平は、妻を持つことが許されず、その有り余った性欲を、時には獣姦をしてまで満たしている。

子供たちに不憫な思いをさせても、そんな信仰をずっと守り続けたおりんだから、『楢山参り』の時が来れば、自ら山の神が棲むという楢山に入ることになる。

辰平に背負われて、苛酷な道を上っていくこの『楢山参り』のシーンがクライマックスになり、坂本スミ子も緒形拳も鬼気迫る一世一代の演技を見せています。

村では、性に関してはおおらかで、土着的ともいえるセックスシーンも多く入れられているのですが、その風習を生むことになったであろうこの土地の自然描写が大胆であり、自然信仰の源であることを描写しています。

草木から生物が生まれ、生物の食物連鎖が起きて自然は繰り返される。
人間は、食物連鎖の頂点に立っているので、信仰の名のもと人減らしをしながら自然の平衡を保たなければならないのだというのが、本作のテーマなのではないかなと考えました。

姥捨てや、セックスシーンがセンセーショナルなので、そこに注目が集まりがちだと思うのですが、人口の80%ほどが無宗教だと答える日本人が持つ無意識の中の信仰を説く哲学的な作品なのだなと思います。

知性、あるいは理性を持ったがゆえに人間のみが感じる自然に対する畏怖の念。
それを具現化したものが『姥捨て』という行為なのだろう。

自然や野生動物まで演出して見せた今村監督の執念が、熱い画面から十分伝わってきますが、個人的には、カンヌのパルムドールは、『戦場のメリークリスマス』のほうかなと思っちゃいましたけどね。
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