ボブおじさん

座頭市のボブおじさんのレビュー・感想・評価

座頭市(2003年製作の映画)
4.6
映画としての評価に比して、興行的には振るわないことの多い北野映画の中で、最もヒットしたのが本作だ。

最初から大衆受けを狙ってか、いつもの北野映画に見られる〝省略の美学〟を封印して分かりやすいエンタメ作品に徹している。

北野映画として初めての時代劇、しかも演じるのは、日本人なら誰もが知る「座頭市」。座頭市といえば、言わずもがなの勝新太郎である。

勝新が放つその強烈なオーラから、誰が演じても役不足となるこの役を、自ら手を上げ演じられるのは、考えてみればこの人以外にいないであろう。

絶対悪としてのヤクザ組織を、たけし扮する座頭市がバッタバッタと斬りまくる〝勧善懲悪〟を話の軸とし、緊張と緩和による笑い、盲目をイジったブラックな笑い、ガダルカナル・タカが担うコントとしての団体芸などで笑わせる。

目くらの按摩という設定は、そのままだが、映画のテイストは、黒澤明のいくつかの時代劇を彷彿させる。

ヤクザが牛耳る宿場町に3組の旅人が同時に訪れる。浅野忠信演じる腕の立つ浪人とその妻、親の仇を探す旅芸者の姉妹、そしてたけし演じる金髪の座頭市である。

浪人は病気の妻を養うためにヤクザの用心棒となり、姉妹は市と同じ家に世話になりながら、敵討ちの経緯を語る。やがて彼らの運命の糸が絡み合い…。

見どころは何と言ってもオリジナルの座頭市を彷彿させる見事な殺陣だ。たけしも浅野もスピード感溢れる居合い抜きでチャンバラ映画としての娯楽性を十分に楽しませてくれる。

また、脇役に岸部一徳、石倉三郎、柄本明、國本鍾建、津田寛治などの芸達者を揃えて犯罪サスペンスとしての面白さも見せてくれる。

更に言えば、映画の中のお座敷芸として歌や踊りだけでなく、一人芝居やコマ回しの芸人を登場させるのも、いかにも芸人監督のたけしらしい。

ラストの大団円のタップダンスは、賛否両論あると思うが、タップが芸人ビートたけしのエンターテイメントとしての原点であることを重ねると、大いに納得できるものである。

「座頭市」という日本映画の大看板の中に、監督北野武が芸人時代から培ってきたアクション・笑い・踊り(タップ)を詰め込んだ老若男女が楽しめる〝大衆娯楽時代劇〟である😊



〈余談ですが〉
先日、北野武監督が日本外国特派員協会 記者会見に登壇した。その中で、新作映画「首」への質問などと共に、ジャニーズ問題についての質問に答える場面があったのをご覧になった方も多いだろう。

改めて本作を見てみると、この映画の中にもハッキリと〝少年性愛〟についての描写が描かれている。

早乙女太一が演じた10代前半の子供に金持ちの男が女物の着物を着せて、化粧を施し体を弄るシーンが映し出される。少年は姉と共に生きて行くために、甘んじてそれを受け入れざるを得ない。

やがて少年は自ら化粧をして男に言い寄り〝おじちゃん、あたしのこと買ってくんない〟と体を売るようになる。

しばらくして戻ってきた少年は、手に握り締めたお金を姉に差し出すと姉は泣きながら弟を抱きしめるのだ。

旅芸者姉妹の過去を振り返る僅かなシーンなので忘れている方もいるかもしれないが、今あらためて見直すと弱い立場の子供を下衆な大人が快楽の道具として弄んでいるこの描写を、あの問題と重ねてしまい複雑な思いで見返した。