半兵衛

六月十三日の夜の半兵衛のレビュー・感想・評価

六月十三日の夜(1932年製作の映画)
4.0
ご近所さんである複数の家庭の様々なドラマが複雑に絡み合い、やがて一つの事件が起きてそれぞれに微妙な波紋を呼んでいくというロバート・アルトマンみたいな題材を90年前にやっていたとは…。人物や家庭の紹介を淀みなく進行する序盤の語り口は見事だし、さっきまで誰かに見られる側だった人物がいつの間かに見る側へと変貌したりある家庭のドラマの背後でもう一つのドラマが進行していたりと凝った演出も面白かった。

そして終盤の事件を巡る裁判劇、各自の家庭におけるトラブルが予想外な波乱を呼んでいつの間にか裁判自体をおちょくってしまうというエスプリの効いた展開が痛快。そこからのちょっとした変化が訪れる結末も◎。あとこの当時禁酒法の真っ只中だったにも関わらず飲酒に関する描写が多かったのでビックリさせられたが、この当時禁酒法撤廃を訴える声が多くて法律が緩くなりつつある時期だったからこそ出来たのか。そう思うとラストのオチは監督の法律への当て付けだったのかも。

普通映画では車を運転したり修理したりするのは男の役柄のはずなのに、この作品ではそれを全て女性がやっているというのが珍しい。登場人物の女性が男のマザコンぶりを批判する場面といい、作り手のなかに家庭に甘える男性に対する批判的な視線を持っている人がいたのかも。

でもこんな凄い作品を撮った監督がどうしてハリウッドで活躍できなかったのか疑問に思ったけれど、DVDの解説で監督がこの映画の数年後に夭逝したと知り納得。
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