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パーマーの危機脱出のcatmanのレビュー・感想・評価

パーマーの危機脱出(1966年製作の映画)
5.0
私がマイケル・ケインの熱烈なファンになったのはコレがきっかけ。飄々としていてシニカル、ユーモラスな一面もあって、偶に艶っぽいところも見せる。彼が演じる主人公のハリー・パーマー(良い名前)は、そもそもジェイムズ・ボンドへのアンチテーゼとして設定された人物像なので、素手による格闘シーンがほんの僅かにあるものの、ガンファイトは殆ど無し、走りさえもしない。何しろパーマーは懲役を免れるために仕方なくスパイの職に就いているという、常に何処か覚めている言動はまるでサラリーマンの様。けれども己の信念に対しては一貫して筋を通すと言う、エリートスパイとはまた一味違った人間臭さに魅了がある。決して語気を荒げることなく囁く様にソフトに話すケインのコックニー訛りも耳に心地良い。(吹き替えの羽佐間道夫も味があって悪くない)。厚手の黒縁メガネを一瞬だけ外した時のケインの二枚目っぷりも見逃せないポイントのひとつ。
要所に登場する高圧的な上司ロスとパーマー二人による会話と嫌味の応酬もすこぶる楽しい。冒頭のやり取り、"Good morning sir." "Good afternoon Mr Palmer." この辺のシークエンスは物語の導入としても実に秀逸。因みにこの上司役は『プリズナーNo.6』のシリーズ中でも印象深いNo.2を演じた俳優なので、これまたファン(オレ)はシビレてしまうって寸法。
ガイ・ハミルトン監督の演出は手堅く、脚本も水準以上のクオリティ。映像はなかなかスタイリッシュで画面の構図やカメラアングル、背景の設定や色彩設計に強い拘りが感じられる。ヒロインもボンドガールの様なセクシー要素は控えめながら美しく強く魅力的で、全体的に色調が抑えられたシックな世界に彼女のビビッドな衣装が華を添えてきる。正統派の劇伴も良い。

一般的に人気も知名度も決して高くないけど、私がこれまで数多く観たスパイ映画のなかでは、恐らくこれが最も好きな作品。
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