イチロヲ

讃歌のイチロヲのレビュー・感想・評価

讃歌(1972年製作の映画)
4.0
伝説の瞽女・春琴に関する文献を手に入れた記者が、かつて彼女の屋敷に奉公していた老女に事の顛末を尋ねていく。谷崎潤一郎「春琴抄」を新藤兼人がアレンジしている作品。いわば「春琴抄、女中は見た!」バージョン。

春琴の付き人・佐助の手記を原典にして、女中役の乙羽信子が流麗な日本語芝居で答え合わせをしていく。本筋は原作とほぼ同じであり、「主従関係に幸福を見いだす」という性愛の在り方が語られている。

端的に言うと、原作読者が自分の頭で推量させていく要素を、新藤兼人流の思想で掘り下げている作品。春琴と佐助の日常生活を徹底的に描写(下の世話までも!)しており、本能と自我と自由意思が混交する、複雑怪奇な恋愛模様を映像化している。

三味線の稽古シーンが妙にエロティックであり、M性感店のプレイルームを覗き見ているような錯覚に陥る。春琴役の渡辺とく子が、新人にして主演女優賞レベルの芝居を披露するところが、大きな醍醐味(最初はひし美ゆり子に打診していたという逸話あり)。
イチロヲ

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