kakaka

讃歌のkakakaのレビュー・感想・評価

讃歌(1972年製作の映画)
5.0
谷崎潤一郎の著書「春琴抄」を映像化した本作。
「原作小説の映画化とは、単なる再現映像ではない」という言葉を最近ラジオで耳にして、深く感銘を受けたが、なるほど本作も見事なアレンジの効いた映画だ。
まず本作の語り部となる「私」が新藤兼人監督本人であり、これが中々に味わいのある演技で癖になる。
原作とは違い、「私」が手に入れた「鵙屋春琴伝」を元に当時の春琴と佐助を知る女中に取材するというかたちで物語が語られる。
この女中は乙羽信子が演じているのだが、老人ホームに入居しており、その他の人々は役者ではなく、実際の老人ホームの入居者の方々で、食事シーン等を長回しで撮るなど、かなり生々しい空気感がある。
何故、ここまで老人達をフォーカスするのか?と疑問に感じたが、ラストシーンで見事な伏線回収を見せる。
春琴と佐助の物語は多少のアレンジはありながら原作に近い気がするが、本作のハイライトでもある、佐助の目潰し行為の映像表現がまた、たまらない。
増村保造、岡本喜八、野村芳太郎と、この世代の監督ならではの、アヴァンギャルドな表現が炸裂する。
大きな目玉のオブジェに向かって、素っ裸の佐助が槍投げのように滑走し、槍を投げ目玉を破壊する表現なのだが、自分は個人的にこの槍を構えて滑走する佐助の姿は、青木繁の名画「海の幸」を彷彿とさせ、深い感動を覚えた。
前述した何故老人ホームの人々にフォーカスするのか?だが、物語のラストで春琴と佐助、両人ともに盲人となる訳だが、佐助が美しいままの春琴を補完しつづけ、また元々目の見えない春琴は、佐助が美しいままの自分を崇拝したまま内面に補完し続けてくれるわけだから、春琴自身もまた美しいまま存在し続けるということ。
この浮世離れした二人の独善的な愛と、美の世界を耽美として原作は表現しているわけだが、新藤監督はこの閉じた二人だけの不変美と愛の対比として老人達をクローズアップしているのだと。
他の交流も、命の伝播も否定し、ただ二人だけの美と愛に満ち足りた世界が幸か不幸か?それとも人並みに歳を重ねて老いさらばえるのが幸か不幸か?
これをラストに主題としてもってくる新藤監督のアレンジ。これぞ巨匠の手腕。最高でした。
kakaka

kakaka