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リリオムのSPNminacoのレビュー・感想・評価

リリオム(1934年製作の映画)
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回転木馬の呼び込みをするリリオム、クズ男と知りつつ一緒に暮らし始めるジュリー。地味で痩せっぽちのジュリーはじっとカメラを見据え、自らこんな酷い男と不幸な人生を選ぶ。これはフランス版「自虐の詩」か?と思うけど、主人公はあくまでリリオムである。
女たらしで傲慢で粗暴でジュリーを殴るようなリリオムだが、子供が出来たと知れば喜びに舞い上がるし、さすがに人を殺せるほど悪人じゃない…と、映画は同情の余地を示す。といっても、悉く選択を間違えてるのは確か。それはジュリーの揺るぎない(端からは理解し難い)献身と対照的で、リリオムはフラフラと享楽に流されるばかり。目の前に現れる黒猫、刃物研ぎの男の暗示にも気付かずに。
彼が自ら死を選ぶのも僅かな良心かもしれないが、間違った選択。死に際の懺悔(と言えるのか微妙)は虚しい。だが「俺たちならず者は死んでも神に会えない」と、すべては貧しさから来る自暴自棄なのだろう。クズ男には当然の末路…と見捨てることなく、人々はリリオムの死を悲しみ、天は選ぶべき別の選択を与えるのだった。
って、突然の死神登場で、それまでのトーンが変わっちゃうのが凄いところ。死者を裁いたり啓蒙するのが如何にも欧州キリスト教らしいと同時に、神はクズ男に対して大変寛大だ。なので、更にビックリなのはリリオムのその後である。えええ…顎が外れるほど呆れた結末だった。やっぱ「自虐の詩」じゃん!
夜の遊園地の禍々しさやジュリーの陰気さ、死神のルックスなどは確かにフリッツ・ラング、ドイツ表現主義っぽさがあるような。でもこれミュージカル『回転木馬』の元ネタのはずだけど、全然イイ話じゃないぞ。
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