櫻イミト

リリオムの櫻イミトのレビュー・感想・評価

リリオム(1934年製作の映画)
3.0
ラング監督が自身のマイベストとした一本。ナチスドイツ脱出直後に手がけた唯一のフランス映画。当時欧米で人気を博していた同題戯曲(1909)の4度目の映画化。

ハンガリーの首都ブタペスト。回転木馬の客寄せをしているリリオム(シャルル・ポワイエ)は、人気者だが粗野で女たらし。客のジュリーと仲良くしてるのを遊園地の女主人が激怒し仕事を辞めることに。ジュリーの叔母の写真館に二人で居候を始めたものの。。。

ドイツ表現主義的映像のヒューマン・ファンタジー映画だった。製作・脚本・音楽のスタッフがラング監督と同じくドイツ脱出組である。

序盤の光と影が魅惑的なカーニバル、終盤のファンタジーシーン、正面カットの切り返しや映画内映写による回想シーンなど、サイレント映画のような強い画が続き映像はとても好みだった。

ただ物語の鍵となる“リリオムがふるった暴力”の捉え方が、現代のモラルとはかけ離れていて違和感を禁じえなかった(個人的にシャルル・ポワイエが苦手なのも拍車をかけたか)。「道」(1954)のザンパノのようにリリオムが後悔の姿勢を見せれば腑に落ちたと思う。ちなみに4年前のフランク・ボーゼイギ監督版(1930)はジュリーが主役となっていて、本作よりは違和感が少なかった。

当時の人々に気持ちを寄せて考えてみると、男性が女性に手を挙げるのは茶飯事であり、それでも心根に愛があることが尊いというイイ話だったのだろう。人間の不器用さダメさを愛情持って描いたことが、ラング監督が本作を最も好きな映画とする所以かもしれない。

※リリオムの守護天使を演じているのはシュルレアリスト作家アントナン・アルトー。
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