すえ

リリオムのすえのレビュー・感想・評価

リリオム(1934年製作の映画)
4.3
記録

ユダヤ系の映画作家、フリッツ・ラングはナチ政権から逃れるため、母国や母語を捨てざるをえなかった。彼はそうした亡命映画作家の中でも最も著名な人物のひとりだろう。彼はフランスを経由しハリウッド帝国へと亡命し、米国では母語を使うことを自らに禁じた。(こうした彼の神話的伝記は、ラング自身によって映画的脚色がなされていたと近年の調査で明らかにされているらしい。)

今作は、経由地フランスで撮られた唯一の映画。多分だけど、ラング本人がこの映画を気に入ってるんじゃないかな、そんな気がする。

キャラクターに微塵も感情移入できないが、何やかんやで感動させられてしまう。ドイツ時代のスペクタクルを求めて観ると、やや拍子抜けしてしまうのは仕方がないか。それにしてもショットの、特に顔面のショットの強度はすごい。

ラングの長回しは全然気づかない、サラッとやってのけるからすごい。そのさり気なさに、我々の無意識が観ている映像に本当らしさを覚える。

ここぞというところで、イマジナリーライン上で切り返す。まるでこの技法が小津の特権であるかのように語られるが、(未見だがフォードもやってるらしいし)やはり完全に首肯することはできない。小津の切り返しに小津的な何かが宿るのは、ただ単にイマジナリーラインの上にキャメラを置いているからだけじゃない。

リリオムの死を遊園地の停止として表象するのが簡潔で良い、何事もなかったかのように再開する遊園地と、未だに微動だにしないリリオムの対比がよく効いてる。

映画内の過去の映像を見るという行為、ここではある意味主人公が観客へと変貌する。『条理ある疑いの彼方へ』へのイメージとして。

厳格な作品のイメージが強いラングだが、今作は彼のやりたいことが詰まった作品だと思う、亡命が作品に多少なりとも影響してるのかな。

2024,95本目 4/16 AmazonPrime
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