なべ

ロシュフォールの恋人たちのなべのレビュー・感想・評価

ロシュフォールの恋人たち(1966年製作の映画)
3.6
 シェルブールの雨傘はさすがに全編歌いっぱなし過ぎてメリハリに欠けると気付いたのか、セリフと歌を分けて楽曲を区切り、さらにダンスを導入したジャック・ドゥミ&ミッシェル・ルグラン組によるリベンジ作品。実際かなり見やすくなってる。
 ロシュフォール公園に到着したキャラバン一行がトラックから降りるや次々に踊り出す軽快なダンスナンバーにまずやられる。三拍子のスイングがとてつもなく気持ちいい。映画を観たことがなくても、この曲は知ってるはず。三菱ランサーのCMといえばおわかりだろうか。まさにミッシェル・ルグランの面目躍如。これはiPhoneに必ず入れておきたいオシャレな名曲だ。ちなみにこのシーンはラ・ラ・ランドで高速道路で踊り出すオープニングの元ネタね。
 話は他愛ない。ロシュフォールを舞台に片思いの男女が都合よくすれ違って、なかなか意中の人に巡り逢えない話。シェルブールに続いて港湾都市なんだけど、海辺に住む人は惚れっぽいとか、フランスにはそういうローカルな恋愛特性でもあるのか?
 例によって衣装やセットがおしゃれなので、各シーンはとてもいいんだけど、全体を通してみると物語の解像度が低くて全然ときめかない。恋に落ちて燃え上がるわけでもなく、本当の愛に気付いたりもしないので、巡り逢えないことにだんだん飽きてきちゃうのね。出逢えないってだけでそんなに歌い踊られても…って。ぶっちゃけ、ストーリーは邪魔とさえ思ってそうな感じなのよ。なので、ここは割り切って粋でおしゃれなムードを楽しむのが正解。

 この作品を観ててつくづく思うのは、歌って、踊れて、演技もできるミュージカル俳優ってとんでもない存在なんだってこと。そもそも演技だけでも観客の心をつかむのは大変なのに、歌も踊りもなんてもはや芸の道に反しているレベル。バケモノか、いや、奇跡なのだ。ジーンケリーなんてさらに顔もいいんだから、もはや霊異と呼んでいい。
 悲しいかなフランスにはそんな都合のいい人材はいなくて、演技のできる俳優が別の人の吹替で歌い、隠し芸レベルのダンスを踊ることになる。群舞シーンでは大勢のプロのダンサーが宙を舞うが歌はない。踊りはステキだけどどこか中性的でおとなしい。というのも表情やダンスのキレがバレエのそれだから。まあ、オペラ座のバレエダンサーは公務員ってお国柄だから、そちらの人材はあり余るほどいるのだろう。確かにバレエはおしゃれなんだが、ちょっと物足りない。
 さあ、そこで躍動感や個性を感じさせるミュージカルアイコンとして、ジョージ・チャキリスとジーン・ケリー(!)が招聘されたわけだ。この2人が加わることで、ロシュフォールの恋人たちは、シェルブールの雨傘よりグッとミュージカルらしくなった(実は彼らが出演していることを完全に忘れてて、登場シーンでメチャクチャびっくりした)。
 ああ、ジーン・ケリーのダンスはやはりいい。レベルが違うんだよな。恋に落ちた表情といい、ダイナミックな四肢のさばき方といい、強い生命力に満ち溢れているのだ。曲がり角を曲がって姿を消すところなんて、見えなくなってからもまだ踊ってそうな気配が感じられるからね。余韻を醸すってスターならでは!ゲスト出演っぽい役だけど、やっぱり圧倒される。
 もちろん、カトリーヌ・ドヌーブとフランソワーズ・ドルレアックの息のあった双子設定(実姉妹)もとっても楽しいし、ジャック・ペランのアイドルっぽい美青年っぷりもワクワクして、もっとよく見たいって身を乗り出しそうになる。全体的にチャーミングなトーン(ドラッグ的な中毒性がある)が作品を覆ってて、心酔するファンが多いのも納得!
 ただ、これから観ようって人はストーリーにはあまり期待しないで。最後にはみんな巡り合えるんだけど、わーい!よかったって幸せな気持ちにはならないから。
 いやあ、ラストを迎えて、逢っても逢えなくてももうどっちでもいいやって心持ちになってる自分にびっくりしちゃったよw
なべ

なべ