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殺意の海のhorahukiのレビュー・感想・評価

殺意の海(1970年製作の映画)
3.9
未練を断ち切る魂の浄化

元夫から急に呼び出し。行ってみたら新しい奥様から「夫殺しに協力して!」と衝撃提案されて「ハァ?」と思いつつも、結婚してた時、あまりのクソ夫っぷりに殺害寸前までいった主人公は夫殺しを快諾。クソ夫を尻目に殺害方法を相談する新旧奥様連合の作戦は成功するのか?っていうレンツィ製ジャーロ。

レンツィ×ベイカー第三弾!『クワイエットプレイス』を原題で検索すると必ずひっかかるやつ。もう一つの英題『Paranoia』は第一弾の『狂った蜜蜂』と同じ。何で同じ英題つけたんだろ…😅毎度毎度クソ夫が出てくるけど、今回のクソ夫は『女の秘め事』で全く感情移入できないクソ夫を演じていたジャンソレル。クソ夫役の達人なのかな。そういえば『デボラの甘い肉体』でもベイカーと組んでたよね笑

夫殺害の場所に選んだのはボートの上。『水の中のナイフ』のようなヒリヒリした空気感をじっとりと見せるのかと思いきや速攻で作戦失敗…😱でも本編はここから。逆に新奥様が夫に殺されてしまい、実は元夫に未練タラタラだった主人公と結託してボート転覆を装い死体を沈める。周りには「溺れて死んだ…」と主張して隠蔽。近くでボート遊びしてた友人。ずっと主人公たちを撮影してた友人。更には殺した奥様の娘まで登場し「ママは泳ぎめちゃ上手かったよ?」と言い始め…というバレる?バレない?なスリルがサイコーに楽しい!

ただレンツィのうまさが出てるのは前半だと思う。すんごく繊細に主従の関係を演出していて、元夫に会いに行く直前の車内で男(仕事のパートナー)がハンドルを握りつつも、キャラの位置、向きで実質的な主従(主人公優位)を描き、それと対応する様に、夫を助手席に乗せたドライブで心的に(恋愛的な駆け引きで)完全に主人公が負けてるが故の“スピードを上げる”という反抗、男が次第に怖くなり“掴む”という行為に勝利宣言を持ってきた後の『断崖』オマージュによって、「翻弄するのは私だ!」っていう決意表明→その後に“支配”の道具として『狂った蜜蜂』で使われた曲を再使用することで、その逆転を印象づけている…のだけど、全然逆転できてないよ?っていうところまで演出しちゃってるのが凄い!

更には新旧妻の間でも両者の相似を印象づけているように思った。夫に捨てられた主人公は無一文からレーサーとして成り上がり、男を逆に養えるくらいの収入がある。それは莫大な財産があるためにクソ夫に完全に寄生されてる新奥様を自身の未来像とする意図を感じられる。

そして、その未来像が夫に殺されてしまうというのが意味深で、プロローグ時点で事故に遭い死の危機から復活した主人公が抱えていた“未来(今の自分が辿る道)”と“IFの未来(過去の自分が別選択をした場合に辿る道)”の行き着く先を両方とも体験し未練を断ち切るための魂の浄化的な物語だったのではないかと感じた。だからある意味で本作は『恐怖の足跡』的で、それを前提とした、パワーアップして戻ってきた主人公による“主従”についてのリベンジムービー。ほんと相変わらずレンツィ面白い!!ただ多分ホラーではないと思う…怪談と見るかどうか…って感じ🤔
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