こたつむり

終電車の死美人のこたつむりのレビュー・感想・評価

終電車の死美人(1955年製作の映画)
3.5
♪ 最終列車は街を抜け夜の帳へと
  離れてく街並眺め 心臓が声をあげ泣いた

タイトルが『死美人』ですよ。
殺人とか死体じゃあないんですよ。なんだかインモラルな感じがして、ちょっとドキドキしちゃうじゃあないですか。カストリ雑誌が氾濫していた時代ですからね。猟奇的なものも感じちゃうじゃあないですか。

でもね。中身は地味。本当に地味です。
殺人事件を追う刑事たちを描いたサスペンス…なんですけど、刑事や犯人などの個人を掘り下げるところには至らず、基本的には事件を追うだけ。

張り込み、訊き込み、尾行に取り調べ。
まさに「捜査は足でするんだよ」的な感じ。快刀乱麻で事件をバッサバッサと推理する…なんて展開は皆無です。粘り強く捜査して犯人を追い詰める…そんな現実があるだけでした。

しかし、それでも面白いんです。
って正しい楽しみ方ではないかもしれないですけどね。映画なんて楽しんだもの勝ちですからね。どんな形でも「面白い」と思えれば良いのです。

で、何が面白かったかと言うと。
それは昭和30年の東京の街並み。
ロケを多用しているからか、当時の生活感がググっと伝わってくるんですね。

有楽町の駅前や、三鷹駅の駅前。
朝は井戸の前で顔を洗って、子供たちはラジオ体操に精を出し、昼にはチンドン屋がぷっぷらと音を出し、バーゲンセールのアナウンスがうるさくて、買い物かごを持ったお母さんが店に向かうんです。

また、かなり重要なのが切符の番号。
自動販売機も自動改札もない時代ですからね。窓口の人が「誰が買ったのか」を覚えていることに驚き、更にはその切符の行方を手作業で探しちゃうんです。時代を感じますねえ。

ちなみに余談ですが昭和30年と言えば。
あの京極夏彦先生の『百鬼夜行』シリーズが舞台になった頃(正確には第一作目『姑獲鳥の夏』から3年後)です。だから、こんな世界に京極とか関口がいたんだなあ、なんて思うのもアリ。そういえばン十年ぶりに新刊が出ましたね。まだ読んでないけど。

まあ、そんなわけで。
刑事ドラマは世相を反映する…なんて言いますが、まさに当時の雰囲気を味わうには最適の作品。事件を追うのではなく時代を追う…そんなスタンスをオススメします。
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