シズヲ

ドラゴン危機一発のシズヲのレビュー・感想・評価

ドラゴン危機一発(1971年製作の映画)
3.0
香港へと凱旋したブルース・リーのカンフー映画、記念すべき一作目。アマプラで配信されているのは広東語に差し替えた吹替版らしく、リーお馴染みの怪鳥シャウトも後付けみたい。ノラ・ミャオはまだちょい役であってもこの頃から可愛いけど、ヒロインのマリア・イーも可愛い。リーのような達人に留まらず、労働者達もチンピラ達も皆等しく格闘で戦える辺りに一種の世界観を感じる。

ノリは“面白くないときのマカロニ・ウエスタン”に近く、とにかく話の展開がグダついている。ブルース・リーも本作では急遽主演になったこともあってか然程見せ場はなく、麻薬密売一味と押し問答のような駆け引きを長々と繰り広げる。「リー師範、いいから早く暴れてくれ」と思っても「母親との約束がある……」との理由でリーは中々暴れない、敵も小細工ばかりで中々暴れさせてくれない。舞台のスケールの小ささもあって、どうにも(観客目線ではとっくに明白な)事件の真相を巡る小競り合いで延々と引っ張られる。

ラスト20分前くらいになってようやくリーが活躍できる戦場が出現するが、退屈な時間のほうが圧倒的に長い。当初の主役だったジェームス・ティエンなどは序盤で頑張ってくれるものの、やっぱり何処か物足りない。リーが香港で人気を確立する過渡期の作品なので仕方ないとはいえ、例えるなら“銃も拳も全然使ってくれないジョン・ウェインの映画”を長々見せられてるようなフラストレーションである。

正直2.9以下にするか迷ったが、何だかんだ言ってラストの大立ち回りと苦味ある結末が憎めなかったのでギリギリ3点台にした。何はともあれ終盤のリー大暴れからはやはり凄い。マカロニ的な容赦なき暴力描写と恐るべきジークンドーの切れ味が絶妙に噛み合い、殺意全開の格闘殺法がひたすら猛威を振るう。リーが完全に殺す気満々なので良すぎる。ヒロイン以外は身内全員皆殺しという無慈悲さに加えて(中盤でのリーに対する掌返しぶりはアレだが……)、ラストも死屍累々の中で警察に連行されるという苦々しい余韻も嫌いじゃない。
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