こたつむり

39 刑法第三十九条のこたつむりのレビュー・感想・評価

39 刑法第三十九条(1999年製作の映画)
3.9
♪ どす黒い絶望に囲まれて
  必死に掴んだその手は
  ボロボロになって消えた
  とても大切な人のオモイデでした

刑法第三十九条だから3.9…ではなくて。
とても評価が難しい作品だと思ったんです。誰にでもオススメできるわけじゃない。でも、刺さる人には痛烈に刺さる…そんな映画なんです。

何しろ、演出がソリッドでアナーキー。
「これは邦画か?」と思うほどに不親切で不安定。森田芳光監督って割とメジャーな作風だと勝手に思っていたんですが、こんなに挑戦的な筆致だったんですね。

しかも、不安定にさせたうえで。
中盤以降は実弾をガンガンと撃ってくるんです。痛いんです。四肢が千切れて薄皮一枚で残っている…そんな状態にさせられちゃうんです。

それでいて、ささやかな爽快さも忘れず。
真実(と思わしきもの)にたどり着いたときの気持ちは、なかなかの充実感がありました。うーん。これって地味にスゴイことだと思うんですよね。

考えてみれば『黒い家』も同じ年に公開。
あちらもソリッドでアナーキーでしたが、原作が原作だからか、本作よりもダークでした。森田監督の演出はサスペンスに向いているのかもしれません。

そんな演出に応えた役者さんたちも見事な限り。
鈴木京香さんも、堤真一さんも、観ている側を苛立たせるのが上手だし(このイラつきが伏線なんです)、岸部一徳さんの気持ち悪さも唯一無二。ハートフルじゃない樹木希林さんも流石でした。

なので、紛うことなき傑作!
と言いたいんですけどね。
先にも書きましたように、かなり不安定にさせる筆致は人を選ぶと思います。実のところ、僕も再鑑賞なんですが、前に観たときの印象がかなり薄いですからね。噛み砕く気概がないと難しい作品なんでしょう。

まあ、そんなわけで。
刑法第三十九条「心神喪失者は責任無能力として処罰しない、また心神耗弱者は減刑する」について踏み込んだ映画。多重人格者というキーワードは興味を惹きやすいですが、本作で描いているのは、その先の闇。それを飲み込めるかどうか、あるいは吐き出すか、そんな覚悟を抱いて臨むことをオススメします。
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