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kocoronoのKKMXのレビュー・感想・評価

kocorono(2010年製作の映画)
4.0
 孤高のロックバンド、ブラッドサースティ・ブッチャーズのドキュメンタリー。なかなか遣る瀬無い作品でした。

 ブッチャーズはあんまり売れてはいないものの、ミュージシャンズ・ミュージシャンとしてあらゆる人たちに崇められている印象のあるバンドです。独自の立ち位置のあるバンドだったので、マイペースに活動していたのかと思いきやそうではなかったようですね。やっぱり充分な稼ぎがなく、苦悩しながら活動している様子が伝わりました。


 リーダーの吉村秀樹は常に苛立っているのですが、カネがないからでしょうね。なにせ、途中で所属事務所が資金繰りが厳しくなり、運営が逼迫しているとミーティングするくらいですから。そりゃあ酒量も増えるでしょう。
 バンド内からも不協和音が聞こえます。吉村は頻繁にバンドメンバーに苛立ちをぶつけます。特に後輩だったドラマーは結構言われてました。それでも続けざるを得ないのも、バンドへの想いもあるでしょうが、バンド離脱後どうする問題もあるからでしょうね。ジリ貧だけどやり続ける以外の選択肢は無かったのかもしれません。
 唯一、クールにバンドを俯瞰していたのは後から加入した、吉村の妻でもある田渕ひさ子です。超然としている雰囲気のバンドだったから悠々自適でやってると思っていたが、加入したところみんな売れたがっていた、とのセリフは面白かった。バンドメンバーの呑気な雰囲気に、これじゃあ売れないよ、と一刀両断していたのもよく理解できました。

 フェスで交わされたeastern youthの吉野寿とブッチャーズのベーシストの射守矢雄のトークは、個人的に一番グッと来ました。射守矢が「走りたいから走るでは、社会では生きていけない」と泣き言をこぼすと、偉大なる吉野寿は「走りたいから走る人にグッと説得力がある」と世界の真実をズバリ言い切っており、シビれました。俺は断然ブッチャーズよりもeastern youth派なんですが、俺はこのアティテュードにシビれるんだな!と実感しました。


 おそらく、吉村はタフな人ではなかったんだろうな、と感じます。吉野寿は現実の厳しさを受け止めながらタフであり続ける力を持っており、その理由は自分の中に北極星、すなわち揺らいでも戻ってこれる大切な何かを持っているためだと思います。
 一方、本ドキュメンタリーを観る限り、吉村にそれは見当たらなかった。音楽的な強さはある一方で、ステージを降りるとなんか脆弱な印象を受けました。ガタイはあって横暴な雰囲気だけど、ナイーブさを抱えきれない人に見えました。酒を手放せないってのはまさにその証左です。
 意地悪な見方をすると、eastern youthは一旦ブレイクを経験しているから北極星を持てたのかも。前向きなことを言えるのは、報われた経験があるから…と邪智できなくもない。そう考えると、経済的な成功に無縁だったブッチャーズは不幸だったと思います。


 吉村は「生き続けなきゃいけない」と言ってましたが、この2年後に急逝します。本編でも「酒飲みすぎで、医者から『止めないと2年で死ぬ』と言われたよ」とMCしてましたが、まさにその通りとなりました。フェスでも酒を持ち込んでいたりして、田渕が「ホントに死んじゃうよ」とこぼしていたので、もしかしたら身近な人たちにとっては、さほど突然の出来事ではなかったのかもしれません。

 そう考えると、ブッチャーズはやっぱり成功して欲しかったですね。いいバンドだったし。『Jack Nicolson』あたりでドカンと売れてブレイクして欲しかったですよホント。せめて所属事務所の首が回らなくなるような事態に陥らず、死活問題にならないレベルの経済的安定があれば、吉村の晩年も違ったものになっていたかもしれません。



【ブッチャーズとeastern youth】
 両者ともに北海道のバンドで、パンク〜ハードコアの流れを汲んだバンドです。個人的にはあまりブッチャーズはハマらず、本作のタイトルにもなったアルバム『kocorono』も通っていますが、ピンと来なかったですね。1回目ライジングサンの『7月』もフーンで終わってしまった。一方、イースタンは『口笛、夜風に響く』から聴いてますんで、かなり好きです。

https://youtu.be/UpKHaHv7BJg
bloodthirsty butchers / Jack Nicolson
個人的に一番好きな曲。曲もキャッチーだし、歌詞は非常にアツいし、PVもいい。ブレイクして欲しかった。

https://youtu.be/x2LFR3fdijY
eastern youth / 夏の日の午後
ブレイクした曲。メジャー第1弾のアルバムの1曲目だったような。本作のPVを観て「ついにイースタン売れる!」と直観し、バンド仲間に熱く語った覚えがある。

https://youtu.be/QMV0yzXGBro
eastern youth / ソンゲントジユウ
タイトルからして最高でしょ!本編での吉野大先生の福音「走りたいから走る人にグッと説得力がある」を象徴するような名曲。後半がより熱い!

https://youtu.be/1dPTKQtHVos
eastern youth / 月影
イースタンのインディ時代最強の1曲。なんかイースタンばっかだな。でもしょうがない、俺はブッチャーズよりもイースタン派なんで。
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