ユタタ

kocoronoのユタタのレビュー・感想・評価

kocorono(2010年製作の映画)
5.0
敬愛するバンドのドキュメンタリー。
ギターボーカルの吉村さんの突然の他界から、この作品を観るのをずっと躊躇していた。
今、自分の私生活で困難の中に陥ってしまい、それを打開する為に、何かヒントになるのではなないかと、ふと思い出したかの様にアマゾンでDVDを注文し、届いてすぐに再生した。
報われない毎日の中で、もがき続けるバンドとそのメンバーの奮闘記。
何の為に音を鳴らし続けるのか、何の為に生きているかと、このバンドにとってはそれはイコールであった。
不器用に振る舞う吉村秀樹の様は、時に利己的で、どうしようもなく孤独に満ち溢れていた。しかし、その様子はわれわれ誰の中にもある、ある種の人間の姿の様に見えた。
そんな吉村が歌ううたと、それを支えるバンドメンバーは、表面上な感情の上での付き合いでなく、もっと奥底にそれぞれで共有する絆の下に繋がっているのだと思った。
それが彼らの鳴らす音なのだと思った。
生まれも育ちも違う人間4人が集まって何かを作り出し、人前でそれを奏でる事を目指す。
その挑戦さえも途方もなく無理難題なんだと思う。
そしてそれを完成させるのではなく、挑戦しようと試みる様こそが奇跡なのでたと思えた。
彼らのアルバムに『未完成』という名の作品がある様に。

人と人の関係において、絶対に相手をわかり合えるという事は出来ない。
そうしようするからこそ、何処かで相手に期待をして、勝手に失望して、何かのせいにして、どうしようもなく落ち込む。

でもそれでも、相手に歩み寄る事をやめてはいけないのかも知れない。
その結果など考えてはいけないのかも知れない。

僕らは1人では生きられないから、共に共鳴しあう事をやめてはいけない。
やめる事も出来ない。
歪に不協和音で混ざり合ううまくいかない人間関係だが、何処か一瞬でも重なり合うその音たちが美しく共鳴しその音を奏でる瞬間があるかも知れない。

その瞬間を決して聴き逃さない様に、耳を峙てながら生きていかなければならない。

音楽だけでなく、吉村秀樹の生き様を通してそれを教わった気がする。

だけど、やっぱり死んでしまうなんて本当にやるせない。
『伝説になんかなっちゃいけない』
『生き続ける』
全編を通して『生』への衝動を感じた。

まるでこれが彼が亡くなった後に作ったかの様に。
まるでこれが彼が亡くなる事がわかって作られたかの様に。
かれの歌がまるで遺言の様に終始響いた。

吉村秀樹にまだなんて言っていいかわならない。
ありがとうとも言えない。
でもブッチャーズの音楽はこれからも聴き続ける。
ユタタ

ユタタ