残像

ひばりの お嬢さん社長の残像のレビュー・感想・評価

ひばりの お嬢さん社長(1953年製作の映画)
2.6
小原まどか(美空ひばり)は大企業の創業者一家という裕福な家庭の娘として生まれ、ある種の美貌も兼ね備えた16歳の女性である。
祖父の病気により一時的に社長の座につくが、とにかくうまく行かない。そして密かに想いを寄せる男性からも相手にされない。

しかし彼女にはもうひとつ与えられた天賦の才がある。それが唄だ。彼女はその唄の力で全てを切り拓いていく。唄により会社は軌道に乗り、唄により難所を乗り切る。

そんな映画なのだけれど、ここまで振り返ってはたと気づく。まどかは「唄によって」切り拓く、と書いたが、逆に言うと「唄によってしか」人びとに評価されないのである。唄がなかったら普通以上にうまく行かない女の子でしかない。たしかに愛想もない大金持ちのお嬢さまをなぜ貧乏横丁の人びとが愛すのか、それはただその唄によるものでしかない。

それを表現しているのか、ただそうなってしまっているのか、なんとも絶妙にアンバランスな顔をした16歳の美空ひばりの表情のなかにある虚無のようなものにハッとさせられる。やはりこれはフィクションでありながら美空ひばりという人の優れたドキュメントになっている。

これを撮った作家が優れているのか撮られた女優が優れているのかよくわからないが、この時代に撮られるべき作品だったのだと思う。本当に素晴らしい、奇跡のような、呪いのような映画。
残像

残像